《MUMEI》
鬼か、子か
 結局、疲れを残したまま二人は朝を迎えた。
「……で、今日はどこ行くの?」
眠そうに、そして不機嫌そうにユキナは言った。
「まさか、今日もここで寝るなんて、言わないよね」
「え、いや。意外と安全そうだからもう一日ぐらいなら……」
「……言わないよね?」
 疲れのせいなのか、ただ寝起きが悪いのか、ユキナは全くの無表情に有無を言わさないオーラを纏って、口調を強めた。
「わ、わかった。別のとこを探そう」
「分かればよし」
 満足そうに頷くと、ユキナは大きく伸びをして体についた埃を叩いた。
「これ、ありがと」
「お、おう」
 戻ってきたジャケットは見るに無惨な姿。
 ユウゴは無言でバサバサとジャケットを払い、腕を通したのだった。

「よし、今日はとりあえず、駅前に向かう」
「駅?なんでよ?絶対危ないじゃん」
 廃屋から出た二人は近くに人がいないことを確認しながら歩き出した。
「危ないって、どこにいたって一緒だろ。それより、今の状況が知りたい」
「状況?」
「駅前にでっかいテレビモニターがあるだろ?
今、この街全体はジャミングされてて携帯もテレビも見れないけど、あそこのだけは映ってんだ」
「へえ。知らなかった。……なんでそんなこと知ってんの?」
「昨日、襲撃の前、あいつらが言ってた」
「そう」
 二人の間に沈黙が降りた。
「で、そのテレビには何が映ってるの?」
 ユキナはわざと明るく言った。
「今、残ってる鬼と子の数。それと残り時間」
 ユウゴが答えたとき、すぐ近くで男の悲鳴が聞こえた。
「なに?」
二人は身構えた。
「よせ!来るな!」
 叫びながら現れたのは、手に銃を持った男。
しかし、妙なことにその銃を使おうとしない。
「てめえ!待て!」
 男を追って来たのはユウゴと同じ年頃の青年だった。しかし、様子がおかしい。
 目は血走り、よだれを垂らし、手には鉈を持っている。
「よせ!来るな!俺は鬼じゃない」
「うるせえ!じゃあその手に持ってんのはなんだよ?ああ?」
「こ、これは、鬼から奪ったもので。弾だってもうないんだ。ほら」
「嘘つけ!」
青年は鉈を振り上げる。
 すると追い詰められたはずの男がニヤっと笑った。
「ああ、嘘だ」
 男は至近距離に迫った青年の頭を撃ち抜いた。
 頭に穴を開けた青年はそのまま仰向けに倒れる。
鉈は派手な音をたてて飛んでいった。
「ざまあみろ。クソガキが」
 男は唾を吐き捨てると、ユウゴたちの方に体を向けた。
「それで?あんたらは鬼か、子か?」
銃口が二人を捉える。
「わたしたちは……」
 ユウゴはユキナを手で制した。彼女は不満そうにユウゴを見ている。

 ユウゴは無視して考えた。
ここはどう答えるのが得策か。
 彼が鬼か子かわからない。銃を持っているということは、普通に考えれば鬼。
 しかし、この一日で子が鬼から武器を奪ったということも十分考えられる。ユウゴ自身、今は本物の銃を持っているではないか。
 そして、今、彼は目の前で人を殺した。ためらいもなく、騙してまで。

どっちだ。
鬼か、子か。
間違えれば、この状況から確実に死ぬだろう。
しばらく考えてから、ユウゴは答えた。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫