《MUMEI》
優しい風
「・・・・・死にたい・・・」
 フェンスの中に入ったら、もう、地面が見える。
「死ぬんだ」
 死ぬんだ―。
 思い言葉だ。人の命という物を背負った重い言葉だ。
「ごめんね・・・・」
 『先生』と心の中で言った。誰にも・・聞かれては困るから。聞かれたら・・先生が困るから。


 体を前に倒そうとした時・・
「ヒュー」
 優しくて・・暖かい・・風が一瞬吹き抜けたのだ―。
 まるで、燐みたいな風が。
「やめろよっ」
「へ??」
 同じクラスの男子だった。
「森山 亮(もりやま りょう)・・?」
「そうだけど・・」
 今まで・・話したこともない人だった。
「私が死ぬの止めるの?」
「まぁな」
「私が死んだら・・嫌だと思う?」
「まぁ・・少しな。だって・・クラスの机に花瓶が置かれてるとか嫌じゃん??」
「まぁ・・・・」
「別に、お前が死んでもどうってことないけど・・クラスの人数減ると変な気分だし・・」
「はぁ・・・・」
 普通・・人が自殺しようとしてたら・・「お前が死んだら皆が困る」とかいうんじゃないの?

「本当にお前は死にたいの??」
「えっ??」
「死にたいかって聞いてんの」
「・・・・そりゃぁ・・自殺しようとしてたんだし」
「本当に??本当に??胸を張って言える??絶対後悔しないって言える?」
「・・・・・」
「だったら・・やめろよ」
「でもっ・・・」
「明日、俺だって死ぬかもしれないんだし」
「えっ??」
「人は・・明日死ぬかも知れないって事だよ。明日生きてるかなんて・・誰が証言できる???」
「できないよ・・・」
「だろ?明日を生きる事ができない人だって・・いるんだよ・・・」
「森山??」
 森山は・・私に背を向けて泣いていた―。

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