《MUMEI》
もしも、あの日
「燐ッ!!」
 人が立ち止まって燐を見てる。
 燐が燐じゃないみたいに・・・・・・・・・・・見える。
「燐・・・・・・」
 私は何も出来ずに立ちすくんだ。
「燐・・・・死んじゃやだよ・・・・・・・・・・」
 燐は動かない。まるで死んでるみたいに。怖かった。



 燐は救急車で運ばれた。
 救急車の中にいるとき、ずっと手を握ってた。燐の手はいつもと変わらないくらい暖かかった。
「燐・・・・生きて・・・・・・一緒にいるって・・・・・・約束するから・・・・・・・」
 涙が一筋に流れていく。
 雪―。
「燐?」
 雪―。
「燐・・・・・!?」
 泣くな―。
「燐」
 あの日、確かに燐の声が聞こえたんだ。
 
 よく見ると、出逢った頃と変わってない顔。

 目をつぶれば・・燐は優しい笑顔を浮かべてて。
 目をつぶれば・・すねたそぶりをみせたり。

 目をつぶると・・燐は幸せそうだった。
 目の前にいる燐は・・・動かない。




「色々と手を尽くしましたが・・・・・・・・・・」
医師が言った言葉だった。
 その言葉が何を表しているのかすぐ読み取れた。
 それは`死’をあらわしている事・・・・・・。
 簡単な事だ。
 もう、燐は戻ってこない。
 優しい笑顔を浮かべる事も、
 一緒に食事をすることも、
 怒ることも、
 話すことも、
 何一つできないんだ。
 
 もしも、燐が死ぬなんて分かっていたなら。
 もっと優しくしてあげられたのに。
 もしも、燐が死ぬなんて分かっていたなら。
 大好きだって言ったのに。
 もしも、燐が死ぬなんて分かっていたなら。
 強く抱きしめたのに。
 もしも、燐が死ぬなんて知ってたら。
 手を繋いで街を歩いたのに。

 頭の中にたくさんの「もしも」が生まれてくる。
 でも・・・もし・・・死ぬ事がわかっていたのなら・・私に何が出来たのかな?


 もっと、生きたかった。ずっと、一緒に居たかったよ―。
 燐の声が聞こえた気がした。
「燐・・・・・・・・ずっと、一緒に居たかったよ」

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