《MUMEI》

「随分と、憂えた顔ね。殺鷹」
往来に立ち尽くす殺鷹へ、聞き馴染みの声が背後から聞こえ
殺鷹はその声にゆるり身を翻した
「十姉妹(じゅうしまつ)……」
久方振りすぎるその人物に殺鷹は驚き
その驚き様に、相手・十姉妹は苦笑を浮かべて向けた
「久しぶりだってのに反応薄いわね。ま、この状況じゃ無理も無いでしょうけど」
想う程のはんのが得られず、不満を愚痴る十姉妹
だが白ばかりの景色を眺め、彼もまた深々しい溜息だ
「……流石、唯我独尊の白の鳥ね。やる事が極端だわ」
「彼女は、何かに依存する事で自分が保てているんだろう」
「その依存するべきモノが白花ってわけ?馬鹿馬鹿しい」
「多分、彼女自身自分が今何所へ向かおうとしているのか理解はしていないだろうね。だから、全てを白に、と純白なんてモノを望む」
「全部が白になっちゃえば、誰もが同じになる、か。本当、馬鹿な女ね」
「君が言うと、何か刺々しいね」
「あら、そう聞こえる?」
言われた事に対し、さも意外だと言わんばかりの十姉妹に苦笑を浮かべながら
殺鷹は歩く事を改めて始める
その後を十姉妹が続いて
当てもなく彷徨うばかりの殺鷹へ、何所へ行くのかを問うていた
「散歩というのは、目的を決めてするものではないだろう?」
「そりゃそうかもだけど」
尤もな事を言われ、反論の言葉を十姉妹は失う
その会話の中に在ってもやはり脚を止める事を殺鷹はせずに目的なく歩く
歩き続け、偶然に辿り着いたのは、一際大量の白花が咲いて乱れる園
其処には、大量の白花に塗れ一輪だけ黒い花が
白ばかりの中密やかに咲く黒を見、殺鷹はその花の前へと片膝を着いた
「……黒の花、まだ咲いてたのね」
十姉妹が驚く声をあげる
ソレは殺鷹も同様で、深々と溜息を吐くばかりだ
「殺鷹、これからどうするつもり?」
「どうする、とは?」
「このまま、白花に満たされた世界を見続ける?それとも……」
「直に全ては枯れ果てる。このまま白花ばかりが咲き乱れれば(宿り木)が目覚めるのも時間の問題だ」
「宿り木?何よ?それ」
「鳥が、羽根を休める事が出来る処だよ」
「鳥が、ってソレが私達と何か関係ある訳?」
「これが、有るんだよ。恐らくね」
言いきっているのかそうでないのか解らない言い草に、十姉妹もやはり訝し気で
だが殺鷹は詳しく説明してやる気は無いのか、歩く脚を速めて行った
「ちょっ、殺鷹!」
話が中途半端だと、後を十姉妹は追ってくる
彼から逃れるため殺鷹は土を強く蹴りつけると高くに飛んで上がった
未だ何かを殺鷹に向け喚いている様だったが
気に掛けてやる事はせずその場を後に
暫く飛んで降りた後
「落日に現れる宿り木。実際に見れば、あなたも少しは私の話を聞いてくれるのかな」
「それは、無理だね」
一人言に呟いたそれに返ってきた声
その声へと向いて直れば、最早顔馴染みとなってしまった少年が立っていた
「白の鳥は君ほど利口じゃない。だから僕は白の鳥に就いたんだ。宿り木を早く育てる為に」
「何の為に?」
「それは秘密。今教えたらつまらないもん」
揶揄う様な表情、そして声
そのすべてに苛立ちを覚えたらしい殺鷹
懐へと手をしのばせると、其処から常備している銃を取って出し、少年の喉元へと銃口を突き付けた
「……遊びのつもりなら、直ぐに止めたほうがいい。自分の身が、大事なら」
殺鷹らしくない、怒気を孕んだ声
だが少年は全く動じることなく、それどころか笑う声すら上げ始める
「駄目。この世界には、二度と再生できなくなる程ボロボロに壊れて貰う予定なんだから」
現実味が皆無な事を言いながら益々笑うばかりの少年に
殺鷹の苛立ちは頂点に達し、銃を握り返した
次の瞬間
「殺鷹、落着いて」
か細い雲雀の声が背後から
その声に冷静さを取り戻した殺鷹が銃を収める
僅かに出来たその隙を借り、少年は姿を消していた
「……出掛けたきり帰って来ないと思ったら。殺鷹、らしくない」
手の中の銃を指差され殺鷹は苦笑を浮かべながらソレを収めた
「少し、大人気なかったかな」
普段通りの穏やかな顔に戻った殺鷹に、雲雀は安堵した様な顔で
殺鷹の手を取ると踵を返す
「随分とその鳥にご執心だね。黒花」
少年からの嘲りに雲雀は振り返る事もせず

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