《MUMEI》

「俺たちは鬼だ」
「ほう。証拠は?」
「ほら、銃を支給された」
 ユウゴは男に銃を見せた。
その隙を見て後ろ手に、気付かれないようエアガンをユキナに渡す。
 彼女はそれを男に見えるように持ち上げた。
じっくり見ない限り、エアガンも本物に見えるはずだ。
「もし、俺たちが子ならボーっと突っ立って様子を見てるわけねえだろ」
「ふん。確かにな」
 男は油断なくユウゴたちを睨んだまま、腕を下ろした。
「こいつは、鬼を殺してこの武器を手に入れやがったんだ」
足で死体を転がしながら彼は言う。
そして、転がった鉈を拾いあげた。
「子の分際で、鬼を殺すとはふざけた野郎だ。なあ?」
男は鉈を振り下ろした。
嫌な音がした。
「そうだな」
「……おまえはあと何人だ?」
「十五人だ」
「そうか。おまえは?」
 ユキナは顔色を真っ青にしながら、それでも気丈に答えた。
「に、二十人」
「俺は、三十人だ。もう八人殺したんだがな。おっと、こいつで九人目だった」
 もう一度、鉈を振り下ろす。死体が揺れた。
「…随分、多いんだな」
「ああ、逃げ出そうとしたペナルティーだとよ。まったく、ふざけたルールだ。…だが、しかし、おかげで人を殺す楽しみを知ったがな」
薄ら笑いを浮かべながら、再び腕を振り下ろす。
ザシュっという音と共に、青年の首が転がった。
「っ……!」
ユキナは声にならない悲鳴を上げて、口を押さえた。
 このままでは、彼女がボロを出してしまうだろう。
そろそろ、ここから離れた方がよさそうだ。
「俺たちはそろそろ行く。子は隠れるのが上手いらしいからな。モタモタしてたら時間切れだ」
「……ああ。そうだなぁ。早いとこ探し出して、もっと、もっと、殺したいしな。お前らも楽しめよ。なあ?」
彼は転がった首を蹴飛ばした。
 まるでボールの様に、首は見事な放物線を描いて民家の庭先へ落ちた。
 男はそのまま、ヨタヨタと鉈を引きずりながら歩き去って行った。
 通りには、首を乱雑に切り取られた青年の体だけが静かに横たわっていた。

「おい、平気か?」
「……平気なわけないでしょ。早くここから離れたい」
 気持ち悪そうに口を押さえながら、ユキナは言った。今にも吐く勢いだ。
 ユウゴはとりあえず、近くの公園のトンネル状になった遊具の中へ入った。
「なんで、こんな見つかりやすいとこに」
「二日目ともなると、意外と見つかりやすい場所ほど、見つからないんだよ。ちょい待ってろ」
ユウゴは水道でハンカチを濡らし、戻って来た。
「ほらよ」
「意外と優しいじゃん」
「俺の横で吐かれると迷惑だ」
「はいはい。そうですね」
ユキナはハンカチを口に当ててしばらく無言で俯いた。

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