《MUMEI》

「うわー……」

目の前でキュース?が帽子を被った。
蒸らしているのだという。

さらさらと小さい砂時計が落ちてゆく。
綺麗な青いカップで、中は白地なので橙色の紅茶が輝いて見えた。
いい匂いが立ち込める。

お茶菓子はワッフルで、また焼きたてサクサクだ……また、メイプルシロップをかけると香ばしさとさっぱりした甘みが合わさり、旨過ぎる。


「うふ、二郎さんて愛らしいですね。」

あ、あいらしいなんて言われたのは初めてだ……。


「ほうれすか?」

口にワッフルが溜まったままだ、咀嚼が食欲に追い付かない。


「自然体なところは七生さんにそっくりです。」

瞳子さんがその名前を言う時は色っぽいと思う。



七生……喉が詰まりそうになり紅茶を流し込む。


「私、七生さんのお話をよく聞いてましたの。そして、実際にコンクールの朗読している彼を見て、とても魅力的な方だと思いました……二郎さんは七生さんの家族なのでしょう?私、七生さんのこと沢山知りたいんです、ご迷惑じゃなければ教えてくださいね。」

……記憶喪失とは言えない雰囲気だ。

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