《MUMEI》
虐め【1】
 何時もの様に、優都
の周りには虐めのメン
バーが集まっていた。

「今日も掃除。サボる
なよ。」

 一際目立ったこの少
年は、リーダーの榊 
翔太だ。
翔太は優都に箒を投げ
付けると、さっさと教
室を出て行ってしまっ
た。

 翔太に続いて残りの
メンバーも居なくな
り、生徒で賑わってい
た教室も、いつの間に
か静まり返っていた。

「…最悪。」

 優都は傷だらけの顔
のまま乱暴に箒を持
ち、掃除を始めた。

 辺りは暗くなってい
たが、優都はちっとも
気にせず、慣れた手付
きで教室を掃いてい
た。

 しばらくしてから急
にドアが開き、一人の
少女が入って来た。
少女は優都の顔を見る
と優都に近づいて、濡
れたハンカチで優都の
頬を拭いた。

「…優都…また…苛め
られたの?」
「…別に…」

 優都の冷たい反応に
少し戸惑いながらも、
少女は話し続けた。

「もう…こんな時間だ
よ?帰ろうよ…」
「まだ終わってないか
ら…飛夏羽、先に帰り
なよ。」

 優都は少女を突き放
して、掃除を続けた。

 この少女は優都の幼
馴染の渡邊 飛夏羽
だ。
飛夏羽は優しい性格を
していて、皆から慕わ
れる存在であった。

「私も手伝うよ。」

 飛夏羽が雑巾を持つ
と、優都は飛夏羽の手
からそれを奪い取っ
た。

「飛夏羽のする事じゃ
ないよ。こんな仕事…
本当、帰りな。」
「…一緒に…帰れない
の?」

 優都は飛夏羽の切な
く見つめる目から自分
の目を逸らし、床に落
ちている箒を睨んだ。

 沈黙の末、先に口を
開いたのは優都だっ
た。

「ごめん…一人にさせ
て。」

 飛夏羽は頷いて、足
早に教室を飛び出して
行った。

 ふと顔を上げ、優都
は飛夏羽を見た。
飛夏羽の後姿は切な
く、そして泣いている
様にも見えた。

 優都は飛夏羽の後ろ
姿を頭の中から消し去
り、掃除を続けた。

 完璧に掃除を終えた
頃には外は真っ暗にな
り、夜の闇に溶け込ん
でしまいそうな雰囲気
だった。

 ポツッ…ポツッ…と
数滴、雨が落ちて来た
かと思うと大雨が降り
出した。

「…傘…壊されたん
だっけ…」

 優都は急いで教科書
を鞄に詰め込み、家へ
と走っていった。

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