《MUMEI》 ブログ愛梨は笑顔で言った。 「いくら女同士でも裸は恥ずかしいよ」 あきらは答えない。じっと外の様子を見ている。会話が続かないので、愛梨は独り言のように文句を言った。 「これじゃストレス溜まるな」 愛梨のセリフにあきらが振り向いた。 「冗談、冗談」愛梨は慌てて両手を出した。 あきらはカーテンを閉めると、愛梨に聞いた。 「ブログを見せてください。犯人がわかるかもしれません」 「敬語使わなくていいよ。フレンドリーなほうが落ち着く」 あきらが真顔で愛梨を見る。 「あ、ブログ、どうぞ」 愛梨はパソコンを操作し、自分のブログを出した。 あきらはパソコンの前にすわると、慣れた手つきで過去の記事を読み始めた。 「毎日更新してるんだ」 「基本でしょ」愛梨は自慢げに答えた。 「1日のアクセス数はどれくらい?」 「3000から4000くらいかな」 「4000!」あきらが驚いて愛梨の顔を見た。 「文才よ文才」 「いや、文章力だけじゃ4000も行かないよ」 「ジョークをマジに取られると辛いよ」 愛梨の言葉を聞いてあきらが睨む。 「嘘、嘘」 あきらはさらに読み進めた。 「写真だな」 「写真?」愛梨が首をかしげる。 「挑発的な薄着を惜しみなく披露している。これならわかる」 愛梨は真顔に変わった。 「あきらチャンそれどういう意味?」 あきらは少し慌てた。 「違う違う。もちろん総合力でヒットしているのはわかる。文章力もあるし」 「キーワードも研究してるよ。人をバカにしちゃダメだよ」 「怒ったのか?」あきらが神妙な顔で聞いた。 「怒れないよ。あきらチャン格闘技やってるから」 「愛梨に手をあげるわけがない」 愛梨はまた笑顔になった。 「愛梨。いいね。そう呼んでくれて嬉しいよ」 あきらは緊張感のない愛梨に少々呆れた。 「愛梨」 「はい」 「今まで風刺した人間を覚えているか?」 愛梨は即答した。 「あたしだってバカじゃないんだから、それくらい考えますよ」 「じゃあ、犯人の目星はついているのか?」 「うん」愛梨は枕を抱きながら頷いた。 「だれだ?」 「男の子みたい」 「男か?」 「違う。あきらチャンが男の子みたい」 あきらは真顔で愛梨を見すえた。 「あ、これくらいの冗談が通じないんならストレス溜まっちゃうよ」 あきらは呆れた顔だが感心していた。弱点を突いてくる。愛梨の頭の回転の速さをあきらは感じた。 愛梨は横からパソコンを操作し、気になるページを開けた。 「あきらチャンこれ読んでみて」 あきらは愛梨が出した記事を読んだ。 『この漫画家は、日本の事情を知らない外国人に、自分が日本で知らない人はいないくらいの有名な漫画家だと吹聴する。 それだけならまだしも、少年少女に明らかに悪影響を及ぼす独りよがりの偏屈な思想を、作品の中に溶け込ませる。 偏ったメッセージは悪だ。親も鋭く見抜かなければいけない。 純粋な真っ白な少年少女の胸の中に、自己中心的な考え方を植えつけたら大変だ。 言論の自由と言論の暴力は全く異なる。 マンガは小中学生が読むから本当に心配だ』 あきらは読み終わると、深い溜め息を吐いた。 「命がいくつあっても足りない」 「あきらチャン何か言った?」 「独り言だ」 あきらはパソコンから離れた。 「政治家に評論家、コメンテーター、タレント、作家、漫画家。よくもまあ風刺したものだ」 「許せないものは許せないもん」 あきらは腕組みしてイスにすわった。 「おそらく。漫画家だろうな」 あきらの言葉に愛梨は緊張感が増した。 「あたし、漫画家は一人しか風刺していないよ」 あきらは立ち上がった。 「その連中を一人でも捕まえることができれば、黒幕を吐かすのはわけない」 確かにブログを閉鎖していないから、犯人がまた来るかもしれない。 しかし愛梨は、危険な賭けをする気にはなれなかった。今度さらわれたら終わりだ。 前へ |次へ |
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