《MUMEI》
ごほうび
 翌日、仕事帰り
珍しくスーパーへと立ち寄った田畑
陳列されている食材を目の前に、夕食のメニューを一人思案していた
一人で食べる食卓 ならばコンビニ弁当で済ますが常なのたが 食べる人数がたった一人増えただけで何故か作る気になったらしい
「やっぱ、魚か?」
一体、ファファが何を好んで食べるのかが皆目見当がつかず
単純な考え、猫耳を生やしているくらいだから魚好きだろうと安売りの鯵の開きのパックを籠の中へ
その後にも、牛乳や鰹節、煮干しなど猫が好みそうな食材を大量に購入し、漸くの帰宅
家へと着くなり、背広を脱ぎ捨てソファの上へ
「正博君……?お帰りなさい」
田畑の立てる微かな物音に、どうやらファファが目を覚ましたらしく、眠たげに眼を擦りながら寝室からの出迎えだ
そんなファファにただいまを言って向けてやりながら、
田畑はファファと目線を合わせてやるために膝を折っていた
「寝てたか?起こしてごめんな」
頭を撫でてやりながらの謝罪に、ファファは首を横へ
未だ眼を擦りながら
「ファファ、お昼に正博君のお布団干そうとしたです。」
自身の今日一日を田畑へとゆっくり話す事を始めた
今日はよく晴れていたからと、穏やかに笑う田畑へ
何故かファファは恥ずかしそうに顔を伏せる
「でも、でも、あんまりにもお布団さんがぽかぽかで、ファファいつの間にか眠っちゃってたみたいなんです」
「成程。道理で布団が床に散らばってる訳か」
「ごめんなさい……」
「別に怒ってるわけじゃねぇよ。ありがとな」
「正博君……」
何かをしてくれようとしていた
その事が田畑には何となく嬉しくて
若干手荒くファファの髪を掻いて乱すと徐に踵を返す
台所へと向かいながら
「今から飯作るけど、食うだろ?」
言ってやれば、頷いてくれるのが見えた
ソレを確認し、田畑は手早く作る事を始めた
買ってきた鰺をおかずに、白米と即席の味噌汁だけの食卓
箸をファファへと渡してやり、そして食べ始める
「美味いか?」
使い慣れていないらしい箸に悪戦苦闘しながら食べるファファ
その様を眺め、田畑の顔に無意識に笑みが浮かぶ
「正博君、とっても美味しいです!」
口元に大量の米粒を付けたその顔
暫く無言で眺め、そして声を上げ田畑は笑う声を零す
「ま、正博君?」
何故笑っているのか解らないファファは不思議そうな顔で
それが、益々田畑の笑いを誘った
「何でもねぇよ。さて、め一杯食うか」
笑う理由を話す事を田畑はせず
そんな田畑にファファは慌てながらどうしたのかを問うていた
「ま、正博君!ファファの顔に何か付いてますか!?」
その慌て様に、田畑は軽く肩を揺らしながら
「ああ。沢山付いてる」
指先を伸ばし、頬に付いたままの米粒を取ってやった
「あ、ありがとです……。正博君」
「どういたしまして。そんだけ美味そうに食ってもらえると、こっちも作った甲斐がある」
ただ焼いて、ただ湯を入れただけの食事
そんな物でもファファは心底美味そうにに食べる
その様が、田畑には可愛く思えて仕方がない
「明日はもう少しマシなもの作ってやる」
「マシな、もの?」
田畑の言葉に首を傾げるファファ
田畑は微かに笑うと頭を撫でてやりながら
「今日は本当に手抜きな飯だったから。明日は、な」
ちゃんとしたものを作ってやる
田畑のその言葉に、ファファは満面の笑みをその可愛らしい顔に浮かべた
「それなら、ファファもお手伝いします!」
「なら、一緒に材料買いに行くか。で、帰ってから料理しような」
「はい!」
「じゃ、今日は風呂入って即行布団だ。行って来い」
頭を撫でてやりながらそれを促してやれば
だがファファは小首を田畑へ傾げて見せる
風呂の意味がいまいち理解出来ないらしく、しきりに頭を捻っていた
「……一緒に、入るか?」
どう説明していいのか分からなくなってしまったらしい田畑
論より証拠だ、とその選択肢をファファへと提示してみる
「正博君、ファファに付いてきてくれるですか?」

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