《MUMEI》
実験的に
羽田はなんとなく気まずい雰囲気を感じながら、隊長の言葉を待つ。
しばらくして、隊長はようやく顔を上げた。

「君は、その声がマボロシのものだと?」

「いや、わかりません。でも、あの場には他に何もいませんでしたし。空耳とは思えません」

「そうか」

隊長は頷いてから副長に目をやった。

「今までにマボロシの声を聞いた者はいたか?」

「いえ。いなかったかと思います」

「そうだな。……もし、この人が聞いた声がマボロシの声なら、何か役にたつかもしれんな」

隊長は言って頷くと、羽田は部屋の奥へと案内した。
その後ろから静かに凜が続く。
部屋の奥では長テーブルが二つくっつけられ、その上に大きな地図が広げられていた。
どうやらこの町の地図のようだ。

「君には、実験的に我々と行動を共にしてもらうことにする。もし、また何か不思議な声を聞いたら、すぐに知らせてくれ」

「あの、つまり、マボロシに会えということでしょうか?」

「そうだ。だが心配はしなくてもいい。君を危険な目に遭わせはしない」

「はあ……」

追い出されなくてよかったという安堵感と、危険な現場に居合わせることになるのだろう不安感を同時に感じながら羽田は頷いた。

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