《MUMEI》

藤城は実松を見下ろして、低い声で唸った。



『…逃げたければ逃げてもいい…


…その代わり…………』



藤城は其処まで言いかけて煙草を口元に運んだ…。



…ツゥ…っと煙りを深く吸い込む音とともに、獰猛な眼光が、震え上がる五十路男を射抜いた。



実松は藤城に悟られぬように生唾を飲むが、額から流れる冷ややかな汗が、追い詰められた焦りを雄弁に語っていた…。



『…何処へ逃げようと、手前は長くねぇ…


…一万の若衆が、地の果てまでも手前を追い詰めるだけだ。』



藤城は言葉と共に煙を吐き出した。



『両の目んタマ……内蔵………


全部バラしてでも弁済してもらうからな…。』



詐欺師風情が相手ならば、素人を威すようにオブラートで包む必要は無い…。



実松は、そのストレート過ぎる文句を背筋が凍る思いで噛みしめた…。



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