《MUMEI》
緊張
(何か…緊張する)


俺と吉野はほとんど面識が無かった。


それに、吉野はいかにも上品な


女性らしい女性で


俺は普段どちらかといえば男性のようにサバサバした志貴といるせいか


吉野と二人きりというこの空間に


妙に、緊張していた。


(松本は癒し系だったしな…)


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

「では、こちらに着替えて下さい」


何故か敬語の俺に、吉野は一番下に着る白い着物を手渡した。


(貴子さん、これも着せたがったよなぁ)


俺は、正月に振袖を着せられた時の


貴子さんとの激しい攻防を思い出していた。


(あの時は、志貴に助けてもらったっけ)


身構える俺に、吉野は


「早く、奥の間で着替えて来て下さい」


急かすように、ふすまを指差した。


「あ、はい」


俺は慌ててそのふすまを開けて、中に入った。


(大丈夫…だよな?)


着替えている間、吉野がふすまに近付く気配はしなかったが


付き合いの長い守は信用できても


吉野を俺は警戒していた。

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