《MUMEI》
吉野の想い人
「それは?」

「背比べの跡ですよ」


首を傾げる俺に、吉野は少し驚いていた。


(知らないと普通じゃないのか?)


俺は、少し躊躇いながらも


「ごめん、知らないんだ」


事実を伝えた。


「こうやって、よりかかって、印を付けてもらうんです」


吉野は木に背を向けて立った。


着物を汚してはいけないから、実際にはよりかからなかったが、俺は納得した。

…が、一つ疑問が残った。


「印は誰が付けるんだ?」


一人では大変そうだと思った。


(普通なら、両親だよな)


それか、資料にあった年の離れた兄姉か


さっきの家政婦だと思った。


しかし、吉野の答えは違った。


「守兄様です。昔から、兄様だけが私に優しくして下さいました」


その顔は


俺に、好きな厳について質問した松本と同じ質問をした時のように


『恋する乙女』の顔だった。


(でも、何で二人は付き合わないんだ?)


常日頃から『彼女が欲しい』と守は言っているのに。


「とりあえず、中に入りましょうか。今日は後は、茶室のシーンの練習をしましょう」


…慣れない正座は俺の思考能力をしばらく停止させた。

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