《MUMEI》
正座が弱点
(痛って…)


着物から洋服に着替えても、俺の足のしびれはおさまらなかった。


「正座、慣れていないんですね」


未だに着物の吉野は涼しい顔で正座していた。


(屋敷出てから初めてやったしな…)


正直、自分でもこんなになるとは思わなかった。


(これは、まずいかも…)


劇の大半は椅子に座っているが


例の、間宮男爵との結婚話をする時は、『茶室で密会』という設定なのだ。


「最終日も駄目なら、対策考えておきます」

「…悪い」


(情けない)


そんな俺に、吉野は


「守兄様に頼まれたからには完璧にやらないと気が済みませんから」


そう言って、微笑んだ。


それから、家政婦が冷たい麦茶を運んできた。


「生き返る…」


思わず呟いたら、吉野に笑われた。


「吉野、守が好きなのか?」


穏やかな空気の中、何気なく俺は訊いてみた。


「さすが、恋愛相談役ですね」

「何だそれは?」


初めて聞く単語に、俺は首を傾げた。


「守兄様が言ってました。『祐也はよく恋愛相談受けてるし、トラブルに巻き込まれやすい』って」

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