《MUMEI》
くすぐりの刑
佐藤はノートパソコンをしまうように、男たちに命じると、愛梨の前に立った。
「漫画家と言ったな?」
「はい、だって、あたし、漫画家は一人しか風刺していないから」
犯人は簡単に割り出せる。佐藤は作戦を変更した。
「愛梨。最初に監禁されたとき、ブログを閉鎖すると約束したから、全裸写真だけは許してあげたのを、覚えているか?」
額に汗が滲む。愛梨は小さな声で答えた。
「はい。覚えています」
「それなのに探偵事務所にボディガードを依頼した」
「怖かったから」
愛梨は宏を探したが、この部屋にはいない。
「鍵がかかっている部屋に簡単に入れるあなたたちは、怖い存在です」
「弱気なふりをしても無駄だぞ愛梨」
「ふりじゃありません。本当に怖かったから」
佐藤は優しい表情で愛梨を見た。
「かわいいな。惚れるぜ」
愛梨は横を向いた。
「愛梨。ならば、そのボディガードをここへ呼ぶんだ」
「え?」
「ボディガードの電話番号は?」
愛梨は下半身のほうから寒気がした。あきらを売れるわけがない。
「電話番号だよ。愛梨」
「あ、あの、暗記していません、いや、ちょっと待って…」
いきなり脇の下を両手でくすぐられ、愛梨は激しくもがいた。
「きゃははは、やめて、やめろ、はは、あははははは、やははははは…」
真っ赤な顔で目をきつく閉じ、白い歯を見せて暴れる愛梨。
この表情が意外とセクシーなので、男たちは興奮した。
佐藤は一旦くすぐり攻撃をやめた。愛梨は乱れた息を整えるのに時間がかかった。
(悔しい!)
「愛梨。電話番号だ」
「ですから、覚えていません…待って…」
再びくすぐりの刑。愛梨は乱れた。
「やははははは、やめははははは、やめて、やめて、わかったから、言うから」
佐藤はくすぐりをやめた。
「言うと言って言わなかったら、次は1時間くすぐり続けるぞ」
「やめて、そんなことしたら死んじゃう」
真顔の愛梨に、佐藤が迫る。
「愛梨。電話番号だ」
「佐藤さん、仲間を売れないことくらい、わかりますよね?」
「そんなにくすぐられるのが好きか?」
「待って、待って。あたしから手を引くように頼みます。ブログも閉鎖するし、警察にも言わないし」
「探偵が知ったなら、警察も知ってるだろ?」
「それは…」
「それを知っているのは、探偵だ。警察がどこまで知っているか、聞く必要がある」
愛梨は口を真一文字に閉じた。
佐藤が合図すると、男たちは愛梨を囲んだ。まさか。何をするつもりか。
「愛梨。電話番号は?」
「あたし、ケータイに頼りまくりで、本当に覚えていないんです。知ってたらとっくに言ってます」
「嘘がヘタだな」
「嘘じゃありません…きゃははははは、待って…やははははは…」
5人がかりとは卑劣な。
「やめて、わははははは、やはは、無理無理無理、あははははは、やはは、やははははは、やめははははは…」
長い。しかも脇の下、脇腹、腰とあらゆる弱点をくすぐりまくる。
(ダメだ…)
どうにもならない。
「言います、言います!」
佐藤の合図で皆は手を止めた。
汗びっしょりで息を乱す愛梨に、佐藤が迫る。
「愛梨。今度とぼけたら、裸にしてくすぐるぞ」
そんなことされたらたまらない。
「浴衣に手をかけたら舌を噛みます」
睨む愛梨。しかし佐藤は笑顔だ。
「愛梨。女の子が拷問に耐えられるわけがない。くすぐりはまだ序の口だ。痛い目に遭わされて、メチャクチャにされてから吐くよりも、今無傷のうちに喋るほうが、お利口だとは思わないか?」
優しく悪魔の囁きで愛梨の心をくすぐる佐藤。
愛梨は俯いた。本音を言えば痛い目は困る。
「愛梨。ボディガードの気持ちを考えてごらん。君がさらわれてから時間はかなり経つ。無事を知らせてやれ。おそらく血眼になって愛梨を探しているだろう」
それは確かだと愛梨は思った。
「大丈夫。探偵と交渉したいだけだ」
「……」

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