《MUMEI》
服を賭ける
あきらは汗びっしょりになって走り回っていた。
愛梨にもしものことがあったら、一生後悔する。
二十歳の女。しかも浴衣姿だ。
淫らなことをされていないか。それを考えると気が気ではない。
あきらのケータイが振動した。
「あっ…」
見る。非通知だ。あきらは電話に出た。
「もしもし」
「あきらか?」
「だれだ?」
「愛梨を預かっている」
やはり監禁されていたか。
「愛梨の声を聞かせてほしい。でないと信用できない」
「いいだろう」
愛梨が出た。
「あきらチャン、ごめん」
「愛梨。無事か?」
「大丈夫。ひどいことはされていないから。凄く紳士的に扱われているわ」
願望を口にする愛梨に、佐藤は笑みを浮かべた。
「愛梨、おとなしくしてな。犯人を刺激したらダメだぞ。絶対助けてあげるから」
愛梨と佐藤が電話を代わった。
「あきら。愛梨は浴衣も着たままだ」
「それは、素直にお礼を言います。ありがとうございます」
佐藤はあきらの態度にほくそ笑んだ。
「なかなか話のわかりそうな探偵だな。一人で来れるか?」
「もちろん」あきらは即答した。
「警察に協力を仰いだら、愛梨は生まれたままの姿を男たちの前に晒すことになる」
「やめてくれ、そういうことは!」
思わず声を荒げるあきらに、佐藤は聞いた。
「今のは、命令か?」
「違う。お願いをしているんだ。とにかく愛梨にはひどいことはしないと約束してほしい」
「約束ねえ」
「この通り、頭を下げます」
佐藤は自尊心をくすぐられ、気分が良かった。
「わかった。約束しよう。愛梨には指一本触れない」
佐藤はさらに告げた。
「あきら。では駅前でタクシーを拾い、次の住所を運転手に言え」
「わかった」
あきらは言われた通りタクシーを拾い、佐藤から聞いた住所を言った。
古い倉庫。
かなり広い。入口には男二人がいた。見張りだろうか。
月光に照らされて、あきらが歩み寄ると、ヒューと口笛を鳴らし、にやけた顔であきらを見た。
「愛梨に負けないほどかわいいな」
「楽しめそうだ」
淫らな目を向ける男たちに、あきらはすました顔で聞いた。
「愛梨は?」
「その前に身体検査だ」
「身体検査?」
「全部脱げ」
あきらはおなかに手を当てた。
「それは恥ずかしいから許してほしいけど、服の上からのボディチェックならいいわ」
そう言うとあきらは、両腕を水平に上げ、胸を張った。
戦闘的な黒装束だが、華奢な体だ。スリムでセクシー。
男は胸を狙って揉み手であきらの体を触ろうとする。
あきらは上げていた腕をバッと男の首へ。首相撲の体勢から顔面膝蹴り!
「がっ…」
一発でKOした。もう一人が焦る。怒りの表情で向かって来た。
あきらは左ジャブから右ストレート!
敵は怯んだ。下がるとナイフを出す。
「ほら、やんのか?」
あきらは冷淡に警告した。
「ナイフはしまえ。それを奪ったら投げるぞ。いいのか?」
「うるせえ!」
ナイフを振り回す。あきらは手首めがけてトーキック!
「痛!」
落とした。あきらは右足でナイフを蹴って滑らせ、そのまま頭部に右ハイキック!
倒れた。あきらは素早くナイフを拾うと、思いきり投げつけるポーズ。
「わあ、やめてくれ!」
両手で顔を庇う男の後頭部に右ミドルキック!
「がっ…」
終わった。
あきらはナイフを投げる。静かな倉庫に鋭い音が響いた。
奥へ入る。大男がイスにすわり、笑顔を向けた。
「愛梨は?」
「2階だ」
あきらは俊敏な身のこなしで階段を上がろうとした。
「待ちな」
あきらは止まる。
「愛梨に会いたかったら、僕を倒してからよん」
「話が違う」
「話なんか知らない」
男はイスから立ち上がった。
「僕の愛称はコング。無慈悲で有名よ。女の子は容赦なくボディブローで気絶させ、一糸纏わぬ姿にしちゃうからね、ぐはぐはぎひひい!」
あきらは額に汗が滲んだ。
負けたら全裸。危険な賭けだ。

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