《MUMEI》
スタンガン
佐藤がスタンガンを握ると、一人が止めた。
「ボス。女にスタンガンはまずいですよ」
「うるさい黙れ」
慌てるあきらに、佐藤はスタンガンを向けた。
「警告を無視して生意気言うからには、覚悟はできてるだろうな?」
「待ちなさいよ、ほんの冗談なんだから」
「俺は冗談通じないんだ」
「自分だって冗談言うくせに」
監禁されたときは犯人とフレンドリーに話す。探偵事務所でそう教わったが、どうやら裏目に出た。
「あきら。俺を舐めてるのか?」
「舐めてなんかいない。ビビってる」
佐藤はあきらの膝にスタンガンを向けた。
「やったら許さない」
「黙れ」
「あああああ!」
あきらの悲鳴に、さっきの男がまた佐藤に言った。
「ダメですよそんなことしちゃ!」
「後藤。おまえ、この女に惚れたか?」
「まさか」
「なら黙って見てろ」
佐藤は再びあきらに迫った。
「あきら。スタンガンの味はどうだ?」
「どれくらい痛いか、自分でやってみな」
「何だと」
強気に出るあきらが気に入らないのか、佐藤はスタンガンをあきらの股に当てた。
「ちょっと…」
さすがのあきらも慌てた。
「そこはまずいですよボス!」
後藤にムードを壊され、佐藤は心底頭に来た。
「なら後藤。代わりにやられるか?」
「え?」
佐藤は後藤の股にスタンガンをお見舞いした。
「ぎゃあああ!」
一発で失神してしまった。
あきらは額に汗が滲む。
「さあ、あきら。お次はおまえの番だ」
スタンガンが再び股に当てられる。
「やめてくれ。ショック死したらどうする?」
「死にはしない」
「危ないから離して」
あきらの慌てる様子に満足の笑みを浮かべた佐藤は、さらにスタンガンを股間に押しつけた。
手足を拘束されていてはどうすることもできない。
あきらは紅潮した顔で全身に力を入れた。
撃たれたら本当に危ない。あきらは哀願とも取れる表情で、佐藤を見た。
「ボス。警察が倉庫内を見せてくれと。今入口にいます」
「何?」
佐藤は今入ってきた若い男にスタンガンを渡した。
「見張ってろ」
佐藤とほかの男たちは急いで階段を降りた。
若い男と二人きり。あきらは男の顔を見た。
「あっ…」
宏だ。あきらはもがいた。
「あきら。久しぶり」
「ほどいてくれ、頼む」
「やだと言ったら?」
「あたしには恩があるはずだ」
「恩?」
宏は怒るとスタンガンをおへそに当てた。
「やめてくれ」
「立場が逆転しちゃったね、あきら」
話せばわかる相手。あきらは必死だ。
「あそこを殴ったことは謝る」
「いや、殴ったことを怒ってんじゃないよ。侮辱したことを怒ってる」
「侮辱?」
思い出せない様子のあきらに、宏は言った。
「痛い目に遭わされるの好きなのか、あきら。おまえマゾかよ?」
「何だと?」
あきらは激怒して暴れた。
「おまえマゾかよ」
「貴様!」
「おまえマゾかよ」
「はっ!」
あきらはようやく気づいた。
「あきら。言ったほうはすぐ忘れるけど、言われたほうはずっと忘れないよ」
あきらは唇を噛んで宏を見つめた。
「謝ったら許してあげる」
ここは素直になるしかない。あきらはそう判断した。
「言い過ぎた」
「ぶははははは!」
「何がおかしい?」あきらは怒った。
「だって、言い過ぎた、は謝りの言葉じゃないよ」
「じゃあ、悪かった」
「一発お見舞いしてあげる」
宏はあきらの股間にスタンガンを押しつけた。
「わかった、やめてくれ!」
あきらは観念して小声で言った。
「ごめんなさい」
「かわいい!」
宏は、あきらの両足をほどきながら言った。
「愛梨を助けたい。協力してくれるね?」
あきらは驚いた。
「もちろん」
宏はあきらの両手もほどいた。あきらはすぐにスタンガンを奪うと、宏に向けた。
「テメー!」
「そんなあ!」
「冗談だ」
宏は部屋を出た。
「あきらこっちだ」
「呼び捨てにするな」

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