《MUMEI》

ユウゴの考え通り、男はせわしく瞬きを繰り返し、顔をそむけようとする。
その男の額を力いっぱい押さえつけてユウゴは破片を突き付ける。
すると男は抵抗することを諦め、両目を閉じた。
「おまえ、誰だ?」
低い声で聞くユウゴに、男は目を閉じたまま答える。
「俺たちは敵じゃない」
「へえ。でも、俺には敵しかいないと思うんだけどな」
言いながらユウゴは破片を男のまぶたにあてる。
「俺たちは、違うんだ」
「どう違うってんだよ?」
「俺たちはおまえの味方だよ」
その声はユウゴの下にいる男から聞こえたものではない。
ユウゴは顔を上げた。
向こうの部屋に男の姿が見える。
背の高い細身の男だ。
歳は三十くらいだろうか。
細い目が鋭い視線をこちらに向けている。
彼は手に持っていたカップをテーブルに置くと、こちらへ近づいてきた。
「おまえが今、こうして生きてることがその証拠だろう」
ユウゴは近づいてくる男を見つめ、やがてゆっくりと立ち上がった。
「ほら、さっさと立て。ケンイチ」
「ああ。ったくもー、いきなりなにすんだよ」
ブツブツと文句を言いながら、ケンイチと呼ばれた男は立ち上がった。

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