《MUMEI》

「僕もこれからは──君を名前で呼ぶ事にするよ」

「‥ぇ」

「文句あるかい?」

「なッ‥ねーよっ」

「なら、交渉成立だ」

ソイツはメガネを外して──

ポケットにしまった。

「それじゃ、宜しく頼むよ、珠季」

「──ぁぁ」

差し出された手を

そっと掴む。

‥あったかい。

「‥静瑠」

「ん‥?」

「──呼んでみたかっただけ」

ずっと呼びたかったんだ。

コイツの名前──。

静瑠‥

この名前を。

「静瑠──」

アタシは

何度も‥

何度も

その名前を呼んだ。

何でか──

涙が溢れてきた。

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