《MUMEI》
プロローグ
俺がまだ五歳のとき、母さんは病気で死んだ。十四歳の夏、写真家だった父さんもパキスタンの紛争に巻き込まれて死んだ。

当時父も母も親戚もいなかった俺の傍にいたのは、一つ年上の姉ただ一人だった。
姉はこのときから何をやっても完璧だった。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、おまけに俺の面倒まで見て、本当は父さんと母さんがいなくなって、辛かったはずなのに、人前では決して弱音をはこうとはしなかった。弟の俺の前でさえ、必死に辛さを押さえ込もうとしていた。けれど、俺は知っている、夜中に父さんと母さんの仏壇の前で泣いていることを・・・。 本当は泣き虫のくせに、俺の前では涙を堪えていることを・・・。


だから、俺は姉さんのことを守ろうと・・・守ると決めた。

必ず姉さんを守る。

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