《MUMEI》

『俺に出来るのはここまでだ…。


…あとは髭でも生やして誤魔化せ…。』



潜りの外科医……男鹿(おが)は、兼松の目を覆っていた化膿止めの湿布を剥がし、手鏡を渡した。



『余り変わってねぇな…。


…こっちは大金を払ってんだぞ…。』



兼松は鏡を覗くなり、男鹿に食ってかかる。



『贅沢言うんじゃねぇよ…。


アンタが来た時点で此処はもう安全じゃねえんだ。


術代には引越し費用も入ってるんだからな…。』



男鹿は血だらけの手術着を乱暴に洗濯籠へ放り投げた。



『こんな汚ぇセーフハウスから、億ションにでも引っ越すつもりかょ…?』



兼松はブツブツ文句を言いながらも、鏡の中の"新しい顔"をつぶさに観察した。

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