《MUMEI》
駅前大通り
やがて気分が戻ったのか、ユキナは口を開いた。
「あれってかなりやばくない?」
 あれとは、さっきのあの男のことだろう。
ユウゴは頷いた。
「けっこうキテたな。けど多分、これからああいう奴が多くなると思うぜ」
「えー、なんで?キモいんだけど」
 心底、嫌そうな顔でユキナが言った。
「だってそうだろ?このプロジェクト、ゲームで四日間生き抜くってことは、それだけ人を殺し続けるってことだ。特に、鬼はな。人殺しに慣れると、あんな感じになるんだ。きっと」
 やけに冷めたユウゴの言い草に、ユキナは冷たい視線を向けた。
「あんたは、なんでそんな冷静に言うわけ?」
「冷静さが命を繋ぐ」
「あー、そうですか」
「さっきだって、俺がいないと死んでたぜ?」
「はいはい。助かりましたよ。どうもありがとう。頼りになるユウゴさん」
ふざけた口調のユキナに、ユウゴは無性に腹がたってきた。
 なぜ自分はこんな足手まといと一緒に行動しているのか。改めて疑問に思う。
「……気分が治ったんなら行くぞ」
 ユウゴはそう言うと返事を持たずに、遊具から出た。
「ちょっと、いきなりなんで不機嫌なわけ?」
文句を言いながら、ユキナも出てきた。
「行くぞ」
「わかったわよ」
二人は再び駅に向かって歩き出した。

「あのさ、不思議なこと聞いていい?」
「なんだよ」
「女の人ってほとんど見ないよね。なんで?」
 そういえば、ユキナと会った時に女の鬼を見て以来、子でも鬼でも女には遭遇していない。
もちろん、由井たちの所にいた人達は別として。
「多分……」
「多分?」
「死んでるんじゃないか?」
「……マジ?」
「だって、普通に考えて、男より女の方が狙いやすいだろ?腕力も、運動能力も。俺が鬼なら、間違いなく女を狙う」
「……どこにいっても女って損よね」
前に何かあったのか、ユキナはやけに実感のこもった声で言った。

晴れた青い空に、ヘリコプターが見えた。

 二人は時々出会う鬼たちをなんとかやり過ごしながら、ようやく駅前大通りにたどり着いた。
しかし、その大通りにユウゴもユキナも足を踏み入れることができない。
 なぜならそこは、まさしく戦場だったからだ。

「ねえ、なによ、これ」
茫然とユキナは呟く。
その呟きの間に、閉店中のファーストフード店が派手に爆発した。
 機関銃の音、人間の怒号、悲鳴、そして狂ったような笑い声。
 空にはカメラを搭載したヘリコプターが同じ空域を旋回っている。
 辺りに広がるのは、警備隊の所に負けないほどの瓦礫と死体の山。
「……これは、選択を間違えたな」
「……戻る?」
「そうしたいけど、もう遅いみたいだぜ」
 建物の陰から覗いていた二人に、若い男が気付いた。
 だらしない笑みを浮かべ、手に持ったボーガンを二人に向ける。
「おい、走れ!」
 言うと同時に、ユウゴは走り出す。ユキナも走り出したのを気配で感じた。
 その直後、ボーガンから放たれた矢は二人がいた建物の壁に突き刺さった。

 ユウゴは走りながら、身を隠せる場所がないか考えた。

 建物の中はダメだ。爆発させられたらそれで終わり。
かといって、いつまでも走り続けることはできない。見たところ、この先はもっとひどい状況のようだ。
黒い煙が幾筋も見えるし、時々、爆発音も聞こえてくる。

……では、どうする。

 考えるユウゴの目が、すぐ近くにある狭い通路を発見した。

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