《MUMEI》
小さな願望
「……グ…ランド…に連れて……行ってく…れへんか?」


「グランド?」


颯ちゃんは突然の彼の申し出に、
少々ビックリしているようだ。


「そや……。」


彼の真剣な眼差しを受けて、
俺は立ち上がった。


「グランドに行こう。」


彼をゆっくりと支えながら、
抱き起こす。


「そうだな。」


颯ちゃんも遅れて手伝った。


そうして俺達は、
少しずつ一歩一歩を踏み締めて歩きだした。








薄気味悪い通路を抜けると、
一面芝生が生えた、
緑色のコートがあった。


それを目にした途端、
凪谷賢史の足取りが速くなる。


足をもたつかせ、
ふらつきながらもコートへと向かう彼に冷や冷やしたが、
黙って見守ることにした。


彼はその場にあったサッカーボールを手にすると、
そのままドリブルしながら走って行った。


傷が痛い筈なのに、
精神も大概ボロボロなのに、
耐え切れないだろうに………。


ひたすらサッカーをしていた。


目を輝かせて、
とても嬉しそうな顔をして。

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