《MUMEI》

「うーわ、コワイ顔。そんなに大事な物ならもっと早くに気付けよ、信じられない神経してるな。」
ルナが眉に皺を寄せて言う。

「……もういい、棄てて。」なづきは諦めて帰ることにした。
頭の中がこんがらがり、考えることを放棄した。
ルナの横を通り過ぎる。

「……待てよ。欲しくないのか?」
ルナはなづきの腕を捕まえる。
「表現が悪かったな、つまり、簡潔に言うとえーと、物々交換……しよ?」
ルナは普段では想像できない人懐っこい笑顔で笑う。なづきには何が楽しいのかさっぱり理解出来ない。

「……私には、何も無いし、あんたに渡す必要も無いから。」
なづきは冷たく言い放つ。
「……マゼンダ」
ルナはなづきの腕を引く。顔が近付いた。
「マゼンダの油絵の具、頂戴?」
ルナが口を開くたびに吐息がかかる。大きな黒目が1ミリメータ程光沢を放っていた。

「描いてある頁は破り捨てて、あとはアンタが使っていいから。」
こんなにも心臓が壊れそうなのは、この宇宙人が、瞳から人間を麻痺させる電波を出しているからだ、
なづきの空想とは裏腹に現実的な言葉が出る。

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