《MUMEI》

 「……烏が居ない?どうして」
漸く帰宅の途へと就いた二人
自宅の戸を開き、中へと入れば
だが其処にあるべき人影がない事に雲雀が動揺をし始めていた
「殺鷹、烏は……?烏はどこに行ったの!?」
冷静さを失い、取り乱す雲雀
慌てるばかりの火鉢は外へ探しに出ようと踵を返し
その手を殺鷹が掴んで止めていた
「雲雀、落ち着きなさい」
「でも殺鷹、烏が!!」
「雲雀!」
若干強い殺鷹の声に、雲雀の動きが止まる
「兎に角、そこに座って。冷静さを欠いてしまったら、見えるモノも見えなくなってしまうよ」
小さく、華奢な身体を抱いてやり、宥めるよう背を軽く叩いてやれば
取り敢えず雲雀は落ち着きを取り戻してくれる
「殺鷹……」
「烏は私が探して来よう。雲雀は、此処で待っておいで」
彼女の前髪を掻き上げ、額へと口付けると外へ
飛んで上がり、町を眼下に見下ろす事を始める
さして苦労する事無く、その姿は見つける事が出来た
白ばかりの街中を不自然に歩きまわる黒の群れ
目立ちすぎるソレを見つけ、殺鷹はその黒の元へ振って降りる
中ほどまで降りてみれば、その姿がはっきりと見える
「あれは……」
見た先には烏
見据えた正面に誰かが居るらしく無言で対峙していた
殺鷹は取り敢えず様子を伺う
「出会って、しまったか……」
烏の前に居たのは梟
互いに突然の遭遇で、表情に驚いた様なそれが見受けられる
「……誰?」
先に沈黙を破ったのは烏
目の前の梟に見覚えがないのか、烏が小首を傾げれば
もともと無いに等しかった梟の表情が更に薄まり、そして徐に懐へと手を忍ばせる
其処から取って出したのは、ナイフ
やはり表情を全く変える事はせず、梟は烏へとソレを振り降ろしていた
次の瞬間来るであろう激痛に身構え、だがいくら待っても烏がそれに苛まれる事はなかった
生暖かいものが烏頬へと飛んで散り
ソレが自分の血液ではない事に気付いた烏は顔を上げた
「……た、か」
烏を庇う様に二人の間へと降り立った殺鷹が、向けられた刃物を腕で受け止めて
深々と刃が腕の肉を抉り、大量の血が滴り落ちていく
「テメェか……」
烏を殺し損ね、あからさまに舌を打つ梟
殺鷹の姿を見るなり踵を返すと、その場から走り去って行った
その背を追う事はせず、座り込んだままでいる烏へと手を差し出て
「……帰ろうか。烏」
殺鷹の、穏やかで柔らかな物言いに
烏は安堵した様な表情へと顔を崩すと、その手を濁りしめた
「たか……」
「どうして一人で外に出たりした?雲雀が、心配していたよ」
「ご、ごめんなさい」
「謝罪なら、雲雀に言ってやりなさい。君が居なくなったと、ひどく慌てていたからね」
言って聞かせてやれば小さく頷く事をする烏を殺鷹は小脇へ
抱え上げると、空を家路にと飛んで上がった
「こ、恐い……」
高い処が余程恐いのか、殺鷹の首へと腕を回し強くしがみ付く
その子供の様な姿に、殺鷹は口元を緩ませて
自宅近くに漸く降り立った
「頼むから、暫くは家で大人しくしていておくれ。私も少しは家で身を寛げたいのでね」
解ったね、と烏へと言って聞かせた
その直後
突然に派手な地鳴りが起こり、土が振動を始める
「これは、一体……」
突然の事に辺りを見回せば
街の中央、丁度白鷺の邸の在る辺りの場所に、白の花が満開に咲く巨木が姿を現した
白色しかない世界に、更に白の彩りを添えていく
感じられるのは煩わしさばかりで
美しいなど、微塵も感じない
「たか?」
眉間に皺ばかり寄せる殺鷹へ
烏は不安げな顔で殺鷹の方を見やる
その視線に気づいた殺鷹が瞬間に顔の強張りを緩ませると、烏へと笑んで向け自宅の戸を開いた
開いて、すぐ後
見えた室内の様子に殺鷹の動くがピタリ止まる
「帰って、来ちゃったんだ。黒の鳥」
何故か家の中にいる少年
土足で家の中へ立っていた、その足元に
一体何があったというのか、傷だらけの雲雀が倒れ込んでいる
「雲雀!」
慌てて掛け寄り、身を抱いて起こせば
彼女の眼がゆるり開いて
殺鷹の顔を見、安堵の表情を浮かべた
「から、すは?」
弱々しい声で、自身の事よりもまずは烏の身を案じ

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