《MUMEI》 遅れてきた手紙慌てた私は、「他に、何か言ってなかった?」と質問する。もしかしたら、結婚のことについて、電話してきたのかと思ったのだ。 戸惑いながら、母は「えー?」と少し考え込む。そして、答えた。 「今、出掛けてますよって言ったら、そうですかって電話切ろうとしてね…携帯にかけたらどうですか?って言ったんだけど、たいした話じゃないから、またにしますって」 それだけよ。 何かあったの? 逆に母が尋ねてきたが、私はそれどころじゃなかった。急いでバッグの中をあさり、携帯を確認したが、着信もメールもなかった。 携帯を操って、啓介の番号を検索し始めた。 電話をかけようと思ったのだ。 何故か分からないけれど、啓介の声が、今すぐに聞きたくて仕方なかった。 待受画面に彼の番号が表示され、通話ボタンを押す−−−。 …それでいい筈なのに。 どうしても指が震え、ボタンを押すことが出来なかった。 かけて、どうなるの? もし、拒絶されたら。 彼の口から、「結婚を取りやめよう」と、はっきり告げられてしまったら。 急に怖くなって、私は通話終了のボタンを押した。 ため息がこぼれ落ちる。 どうすればいいのか、分からなかった。 その時。 突然、ドアが開き、私の妹が「ただいま〜」と呑気な声で言いながら、リビングに入ってきた。 どうやら仕事帰りのようで、その表情は疲れ切っている。 妹は私の4つ下で、専門学校を卒業した後、都内のシティホテルのベルガールとして就職した。社会人2年目ということもあり、「仕事がハード過ぎる」とぼやいていた去年とは違い、今では「先輩と後輩に挟まれて大変だ」と、よく愚痴をこぼしている。 妹は私の顔を見るなり、「あれ?」と変な声を上げた。 「お姉ちゃん、いたんだ。なんか顔見るの、久しぶりじゃない?」 そういえば、最後に妹と会ったのはいつだったか…。 私と妹は二人とも実家に住んでいるのだが、お互いシフト制の仕事の為、タイミングが悪いと一切顔を合わせることがないのだ。 妹はため息をつき、「いつものことながら、不思議だよねぇ」と付け足す。私は何も答えず、とりあえずバッグをダイニングの椅子に置いた。 妹は、無視した私に特に気を止めず、母に新聞と、ダイレクトメールの束を手渡した。 「朝刊と夕刊、ポストに入ったままだったよ。ダメじゃん、小まめに取りに行かなきゃ」 小言を言う妹に、母は「だって面倒なんだもの」と言い訳をする。妹は呆れたようにため息をついてから、「あ、そうだ」と声を上げ、私を見た。 「さっき郵便配達のおじさんと玄関先でばったり会って。なんかミスで届けるのが、かなり遅れちゃったとか何とかで…一生懸命、謝ってたよ」 そう言って自分のバッグから、一通の白い封筒を取り出した。遠目からでも、それが薄いものだということが分かる。それを私の眼前に差し出して、続けた。 「手紙だって。お姉ちゃん宛ての」 私は眉をひそめた。 私宛ての手紙? 一体、誰からだろう? 前へ |次へ |
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