《MUMEI》

シャワーを浴び、身支度を整えて、裕斗はベランダで煙草を吹かしている。







部屋の中からぼんやりと彼の背中を見つめる。


…何だよ、最初に気持ちに気付いた時、ちゃんと好きだって言ったら俺と付き合ったのか?







……


…でも…今更な事だ。






裕斗には伊藤さんがいて、俺には隆志がいて。





隆志の事、好きで好きで堪らない、そんな自分もいる訳で。




隆志と離れるだなんて




…考えられない。







さっき裕斗とダチに戻った感じは確かにしたけど、シャワーを浴びながらふと自分自身を抱きしめたとき、




この腕が裕斗だったらと…、




もう一度裕斗に抱きしめられたいと強く、





想ってしまった……。







気がつけば裕斗には伊藤さんがいて、





隆志に抱かれた俺は隆志に惚れた。












俺は…最低だ。








隆志には俺だけしか見て欲しくて堪らないのに、俺だけ見てって頼んだくせに





…それなのに俺は裕斗にふらついてる。








隆志が裕斗を抱いた事実。







二人がそれを何処まで消化しているのか常に気になってモヤモヤしてたけど…






もし、本当は、


そんな事が引っ掛かってた訳じゃなくて



隆志が裕斗を抱いた…、裕斗に触れた隆志に今まで嫉妬していただけだとしたら?




………。







解らない、やっぱり答えがでなかった。





自分の本心がわからない……。











でも、裕斗と抱き合った事実でもの凄く心が穏やかになった俺がここに居る……。

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