《MUMEI》

込み上げる不審感から、私は手紙を受け取らず、「ダイレクトメールとか?」と尋ねると、妹は首を振った。

「違うよ、エアメール。学校の友達じゃないの?」

妹は「えーと…」と呟いきながら、その封筒と睨めっこをした。
そして、言ったのだ。

「ニューヨーク…アメリカからだね」

私は固まる。
アメリカから…?
有り得ない考えが、私を襲う。

まさか、まさか…。

妹は私の表情の変化に気づかず、「差出人は…」と読み上げた。

「シュンペイ・マツシマ?」

その名前に、目の前が真っ暗になった。

…今、なんて言った?

妹は「男からじゃん!」と大声を上げ、ニヤニヤしながら、私の顔を見た。

「もしかして、浮気?」

くだらない冗談に、何故か母が割って入る。

「あんたね〜!!どこまでだらし無いのよ!?」

騒ぎ立てる二人を無視して、手紙を引ったくると、すぐに封筒の上に書かれた、アルファベットの文字を真剣に見つめた。
右端には、赤字で『Air Mail』とプリントされていて、左上には、差出人の住所と、名前が、あった。


『Syunpei MATHUSHIMA』


その小さく、少し癖のある字体に、私の目が、くぎづけになる。
間違いない。これは俊平の字だ。

俊平からの、手紙だ…。

「嘘でしょう…?」

私はぽつんと呟く。妹は不思議そうに「なにが?」と尋ねてきたが、答えなかった。
手紙の消印は、ちょうど今日から2週間前の日付になっている。

「早く開けてみてよ〜。なんて書いてあるの?愛の告白〜?」

「瑶子!マツシマって誰なの!?答えなさい!!」

完全に面白がっている妹と、完全に誤解している母を無視して、私は手紙を持って、居間から駆け出した。


どうして、どうして、どうして…?

間違いなく、これは、俊平からの手紙。
何故、彼は手紙を送ってきたのか。
一体何を、伝えようとしているのか。

さっき、最後の別れを告げたばかりなのに。

どうして彼は、こうも私の心を掻き乱すのか。

俊平…。
あなたは、何を考えているの?
私に、どうして欲しいの…?


自分の部屋に入り、ドアをしっかり閉じた。これで母と妹に邪魔はされまい。
実家暮らしは嫌いな家事をしなくて楽ではあるが、プライベートがほとんど無いので、こういう時にかなり困る。
私はベッドに近寄り、ゆっくり腰掛けた。

高まった感情を静めるために、大きく深呼吸する。

それから、両手で握りしめた俊平からの手紙を、じっと見つめた。

どんな内容が書かれているのか、想像もつかない。

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