《MUMEI》

「裕斗……」
「ん?……」


「…裕斗」

「……」

ズッとファスナーを引く音。
携帯をケツポケットに突っ込んで裕斗は立ち上がった。

「俺出るけどまだ居るか?居るなら鍵預けるけど」
「………



いや、……、一緒に出る…」


「そっか、悪いけどもう時間だから」
俺の顔を見る事なく脇を素通りする。

玄関でシューズを履き、シューズボックスに貼りついている鏡で髪型を気にしている。


「伊藤さんに…、会うんだよな」
「………、うん…」


「………」

「………」


−−−−やだ……


「伊藤さん…」



−−−−伊藤さんが……


嫌いだ……。



ゆっくりと振り向く裕斗。一段低い場所にいる為目線が同じ位置になる。



「…、…じゅ……」


「ゆうとぉ!、ダメ…、俺ダメだよ!もうダメだよ!!」


立っていられない。
俺はその場に崩れ落ち、床に伏した。

「嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
「惇、じゅん…」

裕斗はしゃがみ込み俺の肩に手を乗せ、俺は瞬時に抱きついた。







切なくて






切なくて







切なくて








声が





だせない。









「ゥッ、……ゥ……





は……ぁ」




裕斗はその場にペタリと尻を付き俺をきつく抱きしめてくれた。

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