《MUMEI》

私は高鳴る胸の音に気付かないフリをして、静かに、手紙の封を切った。

その中から、出てきたものは。

折り畳まれた、薄い便箋が2枚と。

そして。

一枚の、写真。

その写真を見て、驚いた。


「これ…」


そこには、私が…学生時代の、少しあどけない表情の、私の姿が写っていた。

…見覚えのある写真だ。

あれは確か、俊平が留学する前の、夏。学校が休みの日に、二人で由比ヶ浜まで足をのばした時、撮ったものだ。

海をバックにして、防波堤の上にあぐらをかいた私が、満面の笑顔を浮かべてこちらに振り返っている。身体のラインにフィットした白いTシャツと、ロールアップしたブルージーンズというラフな出で立ち。自慢だった長い髪の毛は、サイドで一つに束ねている。

懐かしい私の顔が、そこにある…。


海鳴りが響く海岸沿いの歩道。
潮の香りに包まれながら、私は歩いた。
目の前に果てしなく広がる海に圧倒され、言葉をなくした。
そんな私の隣で俊平は朗らかに微笑む。

−−写真、撮っていい?

彼はそう言って、カメラを取り出し、海にレンズを向けて何度かシャッターを切る。手持ち無沙汰の私は、胸の辺りまである防波堤によじ登って、海の方へ身体を向け腰掛けた。

どこまでも広がる、深い青色のパノラマ。
空と海の境である水平線は、堂々と私の視界を横切っていた。
その繊細な青のグラデーションに、感動した。
波は絶え間無く寄せては返し、寄せては返し…それを繰り返していた。
こんな穏やかな時間が、永遠に続くのではないかと、そんな気さえしてくる。

しばらくそうやって海の様子を眺めていると。

−−瑶子!

優しい声が呼んだので、私はゆっくり振り返った。
それと同時にシャッターの音が聞こえる。
俊平が、私の姿を撮ったのだ。

−−やだ、急に撮らないでよ!

私が文句を言うと、彼はカメラを構えたまま笑って言った。

−−いいじゃん、固いこと言うなよ。

−−やだよ、適当な服着てるし…それに、いつもブサイクに写るじゃない。

私の言葉の後に、またシャッターを切る音がする。

−−そんなことないよ。いつもと変わらないって。

その言葉に引っ掛かるものがあったので、私は眉を吊り上げて言った。

−−…それって、どーゆー意味?

−−そのままの意味だけど?

−−もー!!俊平のバカ!


そんな会話をしながら、二人大笑いした。

これは、その時撮られた一枚だ。

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