《MUMEI》 もし『イエス』なら幸せだった、あの頃。 『永遠』という言葉を、本気で信じていた、当時の幼い私。 もう、戻れない、掛け替えのない、その時間。 昔を思い出しながら、その写真をナイトテーブルに置くと、震えた指で、ゆっくり便箋を開いた−−−。 ***** 櫻井 瑶子様 突然、手紙送ってすみません。 どうしても、伝えたいことがあったので、ペンを執りました …とは言っても。 なにから書いていいのか。 頭の中が、全く整理出来てないから、思い付いたまま、書きます。 わかりづらいとは思うけど、お願いだから最後まで読んでください。 まず、最初に謝りたい。 5年前、再会した時、瑶子を傷つけたことを、本当に後悔してます。 あの時俺は、久しぶりに瑶子に会えて、本当に嬉しかったんだ。 嬉しくて嬉しくて、年甲斐もなくはしゃいでしまって、つい、自分の話ばかりで。瑶子が学校のことで悩んでいるなんて、気づきませんでした。 メールでも、相談されていたのに。 分かってあげられなくて、本当にごめんなさい。 それと、「4年は帰らない」と言ったこと。 あの言葉で、瑶子がどんなに傷つくか、分かっていた筈なのに。 分かっていてもそれを口にしてしまった俺は、凄く子供だったんだと思います。 でも、誤解しないでください。 あの時、あんな風に「帰らない」と言ったのは、瑶子を蔑ろにしようとした訳ではなく、本当に、考え抜いて出した結論だったんです。 俺だって、出来ればあのまま、瑶子の傍にいたかった。 言い訳がましく聞こえるかもしれないけれど、ずっとずっと、瑶子と一緒にいられればと思っていました。 だからこそ、「迎えに行く」と言ったんです。 アメリカで自分の夢を叶えて、自信をつけてから、瑶子を迎えに行こうと。 その気持ちに嘘はありません。 それだけは信じてください。 少し、自分の話を書こうと思います。 俺は例の専門学校を卒業して、今はマンハッタンの小さな出版社のカメラマンアシスタントとして働いています。 卒業と同時に、クラスメート達が大手新聞社や、有名なフォトスタジオに次々と就職していく中、俺はビザとか人種とか、様々な事情によって、なかなか仕事を見つけられませんでした。 結局、自分一人ではどうにもならなくて、LAにいる叔父を頼って、今の会社を紹介してもらい、ようやく職を得たわけです。 仕事といっても、そんなにゴリッパなものじゃありません。 前へ |次へ |
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