《MUMEI》

―…でも、椎名くんはどう思ってるんだろう…??



私は、そっと椎名くんを盗み見た。



椎名くんは、難しい顔をして俯いている。



…やっぱり、椎名くんにとっては忘れたい出来事なのかな…



憂鬱な秘密、だったのかな…




椎名くんが『忘れたい』と言うのなら、


…私も忘れよう。




私だけが覚えているのは―…




…私だけが、入れ替わりの日々を愛しく思っているのなら、




きっと、辛くなってしまうから。




もういちど椎名くんの横顔に視線を向けたちょうどその時、
椎名くんが俯いていた顔を上げた。



真直ぐな瞳で、満月を見つめる。



私は、月明かりに照らされた、
美しいその横顔に見惚れてしまった。



椎名くんは、月を見つめたまま、凛とした声でこう言った。




「おれの記憶は、消さないでください」

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