《MUMEI》

写真には…そして手紙には、俊平の正直な想いが、たくさん溢れていた。

初めて、『松嶋 俊平』という男のことが分かった気がした。

不器用で、わがままで、小心者で。
でも、とても、優しいひと。

ここからは、完全に私ひとりの憶測になるのだが。
私からの連絡がないまま日本にやって来た俊平は、玲子にメールなり電話なり、何等かの連絡をとって、私との間を取り持って貰うよう頼んだのだろう。
きっとそこで、私の婚約の話を彼女から聞いたのだ。
玲子は真面目な性格だから、おそらく包み隠さず全てを話したのだろう。
そして、私が彼に連絡をしなかった理由を、婚約話と結び付けたのだ。

…それが、私の『最後的な答え』なのだ、と。

学校で再会したのは、紛れも無く偶然だった。私の姿を見て驚いたのは、彼も同じだった筈だ。

離れてしまった私の心を、取り戻すチャンスだったのに、彼はそんなことは、けっしてしなかった。
なぜなら、気づいたからだろう。
私が、ウィークエンドを纏っていないことに。

−−二人だけの、久しぶりの週末を、あの香りに包まれて、過ごしたいのです。

それが彼の願いだった。
何も知らない私は、香水なんか身に付けていなかった。

だから何も言わず、ただ、「結婚、おめでとう」と、それだけ言って立ち去ったのだ。


間違いは、一つもない。
玲子が婚約の話を言ったとしても、彼が『答え』を早合点したとしても。
全て当たり前のこと。

もしも。

この手紙が遅れることなく、予定通りに私のもとに届けられていたら。
私は、俊平と連絡をとっていただろうか。

−−彼の想いに、イエスと答えてていただろうか?

そう思ってから、打ち消した。
もう、止めよう。
有り得ない夢を、見るのは。


夜が明け、日が昇る。
また、新しい一日が始まる。
私と俊平は、これから別々の未来に向かって、歩き出すのだ。

他でもない、自分自身のために。




月曜日の午前中、私は玲子に電話をした。
俊平と再会したこと、そして、彼から遅れて手紙が届いたことを告げると、玲子は暗い声で、「そうだったの…」と呟いた。
私は落ち着いた声で言った。

「…仕方なかったの。私と俊平は、結局こうなる運命だったんだよ」

何度巡り会っても、その度に別れを繰り返す。
どんなに求め合っても、その想いは報われない。

そんな星のもとに生まれてしまった、私達だから。

玲子は言った。

「俊平は、自分の気持ちを手紙に託したんだね…」

想いは届かなかったけれど。
私は黙り込んだ。玲子は続ける。

「瑶子は?」

「え?」

私が、なに?

「瑶子は、ちゃんと伝えたの?」

「なにを?」

「自分の気持ちよ」

苛立ったように玲子は言った。

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