《MUMEI》
ありがとう 〈私〉
電車では、いつの間にか眠ってしまっていた。


椎名くんが、私の鼻をつまんで起こしてくれ(?)た。



すごくいい夢を見てたはずなのに、いきなり息が苦しくなって、
慌てて目を開けたら、椎名くんがけらけらと笑っていた。



少しむっとしたけど、椎名くんの笑顔が可愛かったので許す。



私達は、今日からあるべき私達に戻る。



椎名くんは椎名くんの生活に、
私は私の生活に。



家まで送ってくれた椎名くんの後姿を、見送る。



大きな背中。



やっぱり、椎名くんの魂は椎名くんの体にいなきゃだめだ。



ああ、



椎名くんが遠ざかる。



なにか、何か言わなきゃ…



私は、声を張り上げた。




「椎名くん!!…ありがと――!!」



椎名くんは、私のほうを振り返ってちょっと微笑んだ。



「おう!…おやすみ!!」


「おやすみー!!」



椎名くんは、顔を戻すとまた歩き出した。



―…もう何度も言ってる『ありがとう』をもう一度言ったのは、
言い足りないから、だけじゃない。



…もう一度だけ、椎名くんに振り返って欲しかったから。










微笑んで欲しかったから。

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