《MUMEI》

電車のドアが開いて、ぎょっとした。





…満員。





そうだ、忘れてた…!!



早い電車にしたの、ラッシュに遭うのを避ける為でもあったんだった…



私が呆然としていると、椎名くんが、



「何してんだ、早く乗らねえと」



と私を促した。



私は、意を決してぎゅうぎゅう詰めの車両に乗り込んだ。



電車が出発すると、人が揺れて私はよろけた。



ひ〜!!


掴まるところが見つからない〜!!


電車が揺れるたびに私はよろけて、何が何だか分からなくなった。



私のほうに電車が傾いた時、
人がいっぱい私のほうへ傾いてきた。



「わああ!?」



うそ、潰される〜…!!



「蓬田、こっち」



椎名くんの声とともに、半泣き状態の私の腕は引っ張られて、
私は電車の壁に背中をつける格好になった。


椎名くんが壁に手をついて、私と人波の間に立った。



ふわりと、椎名くんの涼しい匂い。



「あぶねー、お前潰されるとこだったな」



上から降ってくる椎名くんの声に顔を上げる。



「あ、ありが…」



心臓がドクンと鳴って、声が出せなくなった。



椎名くん、ち、近い…!!



「うん??」



椎名くんが、私の言葉を聞き取ろうと少し顔を近づける。



うわわわわわわわ、ち、近い近い!!



ばくばくとうるさい心臓を押さえ込むように、
私は急いで俯いた。



「あ、ありがとう!!」



やっとのことでそれだけ言うと、
それから駅に着くまで顔を上げることはできなかった。



死にそう…



私が死にそうになっていると、電車が降りる駅に到着した。

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