《MUMEI》
珠美はため息をついて教室のドアを開けた。
その音がしたことに気がついた佳緒は、珠美に駆け寄った。
「どうしたの?久我は?」
返事がない珠美のうつむいた顔を覗き込んだ。
「・・・佳緒・・・」
うつむいた珠美の目頭には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「屋上に行くよ」
佳緒は珠美の手を引いてドアに向かった。
そんな2人を見てクラスメートは
「とうとう本性見せたのか、久我の奴」
「つーか久我と付き合おうっていうのがムリなんじゃない?」
とぼそぼそと囁いていた。
「うるっさいわね、見てんじゃないわよ!!」
佳緒はクラスメートに睨みを利かせて、珠美を守るように教室から出て行った。
珠美は耐え切れずぼろぼろと泣き出した。
そんな珠美の手を引いて、佳緒は黙々と屋上へと通じる階段を上がる。
2人は階段を上がりきり、屋上のドアを開けた。
空を見上げると、珠美の心とは反対に、真っ青なキラキラと光る空だった。
ベンチに珠美を座らせ、佳緒はちょっとまってて、と自動販売機へ向かった。
何も聞かないんだね、佳緒。
珠美は何も聞かない佳緒に感謝した。
しばらくして佳緒は戻って来て、温かい紅茶の缶を珠美に差し出した。
「ありがと、佳緒」
紅茶を受け取り、1口飲むと珠美はため息をついた。
佳緒も紅茶を喉に流し込み、空を見上げた。
話すまで、佳緒は待っててくれるんだね・・・。
私ね、と口を開くと、佳緒は珠美の方を向いた。
「フラれちゃったんだ」
「珠美・・・」
えへへ、と辛そうに笑う珠美を見て、佳緒も辛そうに顔を歪めた。
「やっぱり久我君が私なんかと本気で付き合うなんておかしいよね?私に告白したのも、私の料理が食べてみたかったからなんだってさー。しかも友達だって言ってた女の子達も、嘘だったなんて・・・馬鹿みたいだよね・・・」
「はぁ!?なにそれ!!珠美の疑わないところに付け込んで、あいつ何様なわけ!?」
佳緒は眉を吊り上げて、荒々しくベンチから立ち上がった。
「あたし、久我のとこ行ってくる」
低い声を出してくるっと向きを変えた佳緒の腕を、珠美は掴んだ。
「佳緒!!もういいよ」
「でも・・・!!」
「本当にいいの。騙されてた私が悪いんだから」
珠美は乾いた笑みを浮かべて呟いた。
佳緒は珠美の隣に腰を下ろすと、ハッとした。
「もしかして・・・今噂でNIGHTSが動き出したっていうのは珠美のことで・・・?」
「え・・・NIGHTSって?」
佳緒は真顔で珠美を見て答えた。
「知らないの?NIGHTSっていうのはね、学園の女の子達を守る集団なんだよ。珠美みたいな女の子をね・・・」
「本当にそんな人たちいるの?」
珠美は佳緒の言葉に首をかしげて聞いた。
「うん。実際助けてもらった女の子は少なくないみたい。でも助けてもらった女の子達は一切口を割らないらしいから、噂だけど」
「本当にそんな人達がいれば良いんだけどね・・・」
珠美はにっこり笑って、ほら授業始まっちゃうよ、と佳緒の手を引いた。
本当にNIGHTSが助けてくれれば良いのに・・・。
無理して笑う珠美を見て、佳緒は思った。
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