《MUMEI》
少年
「あそこに入れ」
ユキナを先に行かせ、ユウゴは銃を抜く。
 振り向くと、いつの間にか鬼が四人に増えていた。
いずれも皆、目つきが尋常ではない。
中には体中が血で染まっている者もいる。

 ユウゴは四人に向かって引き金を引いた。
 エアガンと違う、発射による反動の大きさに驚く。
初めて撃った弾は彼らの頭上を虚しく飛んでいった。
「クソ!」
さらに二発、三発。
 できるだけ狙いを足に定めるが、素人で、しかも走りながらだとなかなか当たらない。
これではただの弾の無駄使いだ。
しかし、追ってくる鬼たちはユウゴが本物の銃を持っていると知り、警戒したのか走るスピードを落とした。
その隙にユウゴは通路に逃げ込む。

 通路には、そこら辺にごみ箱や段ボールなどが散乱していたので、手当たり次第に後方へ投げ付けた。少しだけでも時間が稼げるだろう
 そのまま走っていくと、なんと目の前に壁が現れた。
行き止まりだ。
「なんだよ!」
 ユウゴは壁に思いきり蹴りを入れ、そしてふと気付いた。
「……あれ?ユキナ?」
 先にこの通路に入ったはずのユキナがどこにもいない。
 ここまでの間に隠れられる場所などなかったはずだ。
戸惑っている間にも、後ろで障害物を蹴り飛ばす音が近づいてくる。
「マジでやべえ」
 一人、焦りながら壁を叩いてみるが、当然、どうにもならない。

いよいよ追い詰められたか。

 ユウゴは鬼たちが来る方向に銃を構えた。
弾があとどのくらい残っているかは知らないが、この狭い通路、外すことはまずないだろう。
もっとも、それは相手も同じこと。

 ユウゴは覚悟を決めて、鬼が来るのを待ち構える。
その時、どこからか少年の声が聞こえてきた。
「兄ちゃん、こっち」
 左右を見るが、誰もいない。
「下だよ、兄ちゃん」
言われて地面を見る。
 するとマンホールの穴から、少年が顔だけを覗かせていた。
「お前!」
「話は後。早くこっち」
 少年はそう言うと、暗い穴へ消えて行った。
ユウゴは素早く穴へ滑り込み、蓋を閉める。
 そのすぐ上で数人の足音がバタバタと響いた。

間一髪。

ユウゴはホッとしながら、静かに梯子を降りて行った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫