《MUMEI》

見渡す限り、ひと、ひと、ひと−−−。
別れを惜しむカップルや、外国人観光客のツアー、忙しそうなビジネスマンなど、たくさんのひとが、いた。

私は、俊平の姿を思い浮かべながら、彼をさがした。


俊平、どこにいるの?
私は今、ここに、いる。

ここに、いる−−−。


再会した時のように、私は必死に彼へ何度も何度も、シグナルを送った。私は、ここよ、と。
無駄なことだと、分かってはいた。けれど一刻の猶予も許されないこの状況で、微かに私と彼を繋ぐ何かがあるのなら、それがどんなにくだらないものでも、すがるより他なかった。


《成田発ニューヨーク行き、ユナイテッド航空401便をご利用のお客様に、ご搭乗のご案内を申し上げます…》

ロビーに響き渡るアナウンス。
俊平が、乗る飛行機の搭乗案内だ。

急がなくちゃ…。

自然と、足が動き出していた。
ふらふらと頼りなく、けれど何か確信をもって、どこかへ向かっていた。


人混みを掻き分けて、彼の姿をさがしながら、いつの間にか駆け出していた。

どこに、いるの?

すれ違う人達と、肩がぶつかり、身体がよろけてしまった。周りのひとが迷惑そうな視線を私に投げかける。
それでも、走るのをやめなかった。

その時、不意に。
漂ってきた香りに、私は惹きつけられた。

爽やかで、スタイリッシュな…あの、ウィークエンド フォー メン。

俊平の、あの香りが、流れてきた、気がした。

私は勢いよく振り返る。


しかし。

そこに俊平の姿は無く。
たくさんの人達が、それぞれの目的の為に、忙しく行き交っている。
それだけ。


《ご搭乗のお客様に、ご連絡申し上げます…》

私は入場手続きのカウンターへ向かって走り出した。
飛行機に乗り込む人達が織り成す、その行列へ。

もうすぐ飛行機が出てしまう。チェックインはすでに済ませているとしたら。

あの列の中に、俊平が、いるのでは。

そんな気がした。

遠くから、多くのひとでごった返すカウンターの列を必死に見つめて、俊平の姿をさがした。

彼の、ウィークエンドの香りをさがした−−−。


−−私は、ここにいる!!


心の中で、叫んでみたけれど。

返事はない。見つからない。
この人混みから、見つけられない…俊平の姿が、あの香りが…。


そして、その時すでに、私には分かっていた。彼は、ここには、いないのだ、と。

《ご搭乗のお客様に最終案内を申し上げます…成田発ニューヨーク行き、ユナイテッド航空401便をご利用のお客様はお急ぎ下さい…》

すーっと意識が遠退くような感じがした。

想いは、届かなかったのか。

私の、たった一つの想い。

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