《MUMEI》
愛は会社を救う(12)
資料室に戻ると、程無く藍沢由香里がやって来た。
ファイル整理のアドバイスというのは表向きで、当然、情報収集が真の目的である。
だが、まずは彼女からファイルの内容についての説明を聴くことにした。こちらが知っていることでも、真摯に傾聴する態度が信頼関係を築くのである。
「会議資料のファイルは保存用が別にあるので、これは全部重複していると思います。あと、広報資材の原稿も、もう使うことはないかと…」
「では、要らないものは、全て捨てましょう」
その提案を聞いた由香里は、急に不安げな表情になった。
「大丈夫でしょうか、私の判断で…」
「大丈夫。藍沢さんにご迷惑はお掛けしませんよ」
そう言いながら、取り除いた資料を足元の古紙ストッカーに投げ込んでいく。分厚いファイルは、ほんの数分でノート1冊分ほどの紙の束にまで減量された。
「すごいです、赤居さん。初めからこうすればよかったんですね」
大柄な体格の割に、小さく整った由香里の顔が輝く。淀んだ資料室の空気は、いつの間にか清らかなヘアトリートメントの香りに入れ替わっていた。

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