《MUMEI》
愛は会社を救う(16)
「ちょっとは考えてくださいね」
そう言いながら、こちらを向きなおした知子の顔が、一瞬にしてひきつった。
私が、そのすぐ背後にまで近付いていたからである。
「な、何よ」
怯えた様子で知子が一歩、後ずさる。私は感情を押し殺した眼でそれを見下ろしながら、じりじりと距離を詰めていく。
オフィスの一番奥にある狭い資料室。窓も無く、ドアは由香里が閉めて出て行った。今は事実上、誰の目も届かない状態になっている。
先ほどまでの強硬な態度は鳴りを潜め、激しく左右に揺れる瞳の動きが、知子の恐怖と動揺をそのまま表していた。
「もしよろしければ」
ようやく口を開いた私に、知子が眼を見開いたまま息を飲む。

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