《MUMEI》
愛は会社を救う(18)
「本当に今日は申し訳ありませんでした」
初日の勤務が終わり、私はバーのカウンターで、藍沢由香里とカクテルグラスを傾けていた。
金曜日の夜。由緒ある城下町のホテルとあって、最上階のラウンジは観光客で賑わっていた。
「ぜんぜん。こっちこそ、こんなお店に誘ってもらって」
店のあちこちを落ち着かない様子で見回す由香里の声は、心なしか弾んでいた。およそ都会では見かけない、純朴というか、年齢の割に屈託の無い娘だ。
「職場の人と飲んだりしないのですか」
「ここは、そういうの全く無いんです」
少し寂しそうに眼を伏せる。
「仲が悪い?」
「…というか、転勤族の人と地元採用の人が、いつもうまく噛み合わなくて」
転勤族というのは、支店長と副支店長のことだ。
ここで私は、さりげなく本題を切り出すことにした。

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