《MUMEI》 着物指導最終日「守、混乱してる」 「少しは困ればいいんですよ」 「確かに」 吉野の今までの気持ちを考えれば、それ位当然だろうと思った。 俺が頷いて笑うと、吉野も笑顔になった。 「しかし、この椅子便利だな」 「…できれば使いたく無かったんですけどね」 「悪い」 (まさかこんなに正座が苦手だとは思わなかった) 着物指導最終日になっても、正座に慣れない俺は、今、正座用の椅子を使っている。 これは、ふくらはぎと太ももの裏の間にあるから、正面から見れば普通に正座しているように見える優れ物なのだ。 「立ち上げる時が問題なんですけどね」 「あ、大丈夫。演出変えるらしいから」 当初の予定では、静(俺)と間宮男爵の結婚式に、静(志貴)が乱入 互いの性別を明かし、結ばれる という流れの中で、正座している俺が立ち上がり、『俺は男だ』と叫ぶ予定だったが、それを変更してくれるらしい。 (何か、嫌な予感はするけどな) ものすごい笑顔の坂井が気になった。 「田中先輩?」 「あ、悪い」 「いえ…」 そして、無事着物指導は終わった。 ちなみに吉野は守に『返事は夏休みの後に』と言ってあるそうだ 前へ |次へ |
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