《MUMEI》

特に音楽の才能など持ち合わせていない私だったが、叶わなかった母親の夢と期待を一身に背負い、地元の公立中学を卒業したあと、血の滲むような努力の甲斐あって、この高校へ入学することが出来た。

そして、芸術科の、みんなとの能力の違いに圧倒された。


次元が違う。
それが第一印象だった。


生まれた時から恵まれた環境にいるサラブレッド達は、努力を知らない。苦労も知らない。親から受け継いだ才能や、コネクションや、財力に身を任せるだけでいいのだから。

お気楽なものだ。
私がどれだけ辛い思いをして、この学校を受験したか…イチから説明してやりたい。

でも、そんなことは、彼等に分かる筈はない…いや、分かろうという気持ちさえ、持ち合わせていないと言う方が、正しいのだろう。


それを自覚してからは、言いようのない劣等感が、私のあとをついて回るようになった。

精神的に、もう少しだけ大人だったら、もっと上手く人間関係を築けたのかもしれない。
でも、私はたかだか15歳の、普通の女の子。
嫉妬もするし、ひがみもする。それなりのプライドだってある。

すっかり可愛いげのない子供になってしまっていた。



クラスメート達が自慢しあっているさなか、私は早く担任が来ないかな…とぼんやり思っていた、その時。

クラスメートの女の子が、バタバタと教室に駆け込んできた。私はいち早く彼女の顔を見る。相当急いでいたのだろう、額は汗だくで、頬も赤く染まっている。
何事かとクラス中の視線を一斉に浴びた彼女は、慌てた口調で、言った。

「如月先輩、今日で学校を辞めるんだって!!」

一瞬、静まり返って空気が凍ったのち。
突然、クラスメート達が混乱したように騒ぎ出した。私ですら驚く。

如月先輩?

名前は、もちろん知っている。
この芸術科音楽コースで、一番有名と言っても過言ではないだろう。

如月 宏輔。
芸術科音楽コース 3年。専攻は打楽器。

父親は確か外人で、ヨーロッパを拠点とする、有名な打楽器奏者。母親は有名国立芸術大学の卒業生で、かつて高校吹奏楽連盟の理事だった。

類い稀な環境と才能に恵まれて、この高校に推薦入学した。

中学生の頃から音楽業界の関係者には名が知れていて、去年学校の主催で行った音楽コースの定期演奏会には、彼のティンパニのソロが目玉となった。
さらに先輩の演奏を見るため、ウィーンの有名な管弦楽団のナントカという指揮者(外人)が、演奏会に訪れたことは新聞にも取り上げられた。その記事は、今でも学校の掲示板に貼り出されている。

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