《MUMEI》
飛び膝蹴り!
勝ちを確信したコングは、生意気なあきらを征服することを妄想し、興奮した。
しかし、背中に激痛が走った。
「ぎゃあああ!」
コングは慌てて立ち上がる。後ろを振り向くと、スタンガンを握っている宏がいた。
「テメー、裏切ったな!」
顔面に重いパンチが炸裂した。
「がっ…」
宏は吹っ飛び、積んでいたダンボール箱もろとも倒れた。
「貴様!」
ダンボールの中に埋まり身動きできないところを、コングがパンチの雨霰。
「たんま…」
「何がたんまだ!」
宏が危ない。あきらはイスを持ち上げると、力一杯コングの背中を叩いた。
「なあああ!」
怒りのコングは大振りフック。交わしたあきらが飛んだ。
飛び膝蹴り!
「がっ…」
顎に入った。
宏がスタンガンをあきらの足下に投げる。あきらは拾うと、コングの股間に一撃!
「NO!」
かがむコングの顎めがけて飛び膝蹴り!
倒れたコングは壁に後頭部を打った。
「あっ…」
うずくまるコング。今がチャンスだ。あきらは宏に手を差し出した。
「宏!」
危機的状況だというのに宏は歓喜の笑顔だ。
あきらは宏の腕や服を掴んで強引に起こした。
二人は廊下に出た。
「あきらチャン!」
抱き合うあきらと愛梨に、宏が言った。
「急ごう!」
三人は狭い廊下を走った。警察はまだか。外の状況がわからない。
前から敵が来る。
「きゃっ」
愛梨が小さく悲鳴を上げた。
あきらは愛梨の手を引いて逆方向に走ろうとするが、敵が挟み撃ちにしてきた。
「どうするあきら?」
「どうもこうもない!」
あきらは敵に突進。飛んだ。飛び膝蹴り!
「ぎゃっ…」
ほかの男のボディに左ジャブから右ハイキック。そのまま背後の男にバックキック!
目の前で三人が倒された。華奢な美少女と甘く見ていた男たちは、慎重になった。
「油断するな!」
「強いぞ黒いほう」
「宏テメー裏切ったのか、それとも人質なのか、どっちなんだ?」
宏は、笑いながら答えた。
「まあ、ハンチャンラーメンみたいなもんかな?」
「ふざけるな!」
「裏切ったな?」
あきらは構えながら後ろの宏に言う。
「宏。愛梨を守ってくれ」
「あたしは大丈夫。それよりあきらチャン無理しないで」
喋っている隙に一人が突進。あきらは迎撃。
飛び膝蹴り!
完全KOだ!
「待て!」
廊下の奥から声が聞こえた。皆は一斉に道を開けた。
ボスの佐藤がゆっくりやって来る。
佐藤がボクシングスタイルであきらに向かう。あきらも両拳を上げて佐藤を睨みつける。
「あきらチャン…」
愛梨は心配顔であきらの後ろ姿を見つめた。
佐藤がにじり寄る。素早い左ジャブを出す。
あきらは間合いを詰める。渾身の右ローキック!
凄い音がした。
佐藤は我慢できずに崩れた。あきらが笑顔で言う。
「飛び膝蹴りを省略するのは、約束通り愛梨が無事だったからよ」
あきらはそう言うと、愛梨と宏を引き連れて、外を目指した。
男数人が行く手を阻む。あきらは構わず右フロントキック!
さらに右フック。後ろから襲いかかる男の顔面にサイドキック!
宏は真顔で呟く。
「あきら。ガンジーの伝記を読んだことあるか?」
「おまえには電気拷問をお見舞いするよ」
「NO!」
佐藤たちが来る。宏はいきなりフォークリフトに乗った。
「僕が食い止める。君たちは逃げろ!」
あきらと愛梨は驚いた。
「やればできるじゃねえか」
「うるさい」
宏はフォークリフトの鋭い爪を人間の目線まで上げると、一団に突進。
「わあ、バカよせ!」
佐藤たちは逃げ出した。宏は叫びながら追いかけていく。
あきらは愛梨の手を引き、外に続いている廊下を走った。
しかし。
目の前に巨漢が現れたので足を止めた。
「さっきはよくもやってくれたね?」
コングは怒りの笑顔だ。
「しっつこいのは嫌われるぞ」
強気に睨むあきらだが、額に汗が滲む。
「しっつこいの好き」
危ない笑顔だ。

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