《MUMEI》

ケーキを食べ終わって、そろそろ帰ろうと思いながらふと横を見ると。

コウキさんは、ニッコリと私に笑いかけた。

「お出かけになられますか?」

「ぁ‥、はい」

「玄関までお連れ致しますね」

頷いて、立ち上がろうとしたら、コウキさんがスッと椅子を引いてくれた。

「では、コートを」

コートを着せてもらって、代金を払って玄関に向かう。

この扉の向こうは、また窮屈な世界。

──でも。

「それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。お帰りを、お待ち致しております」

「はい、行って来ます」

また、帰って来よう。

喜びを、分けてもらいに。

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