《MUMEI》

仕事が終わって──怠い体を引き摺るようにしながら、私は駅に向かって歩いていた。

「はぁ‥」

こんな時、つい思ってしまう。

「──お嬢様になれたらいいのに」

そう呟いた時、

「‥?」

手前の方に、見慣れない店を見付けた。

「何だろう、あのお店──」

新しく出来たのかな。

興味半分で、近付いてみる。

扉に手を掛けようとした、その時。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

声がして、私が横を向くと‥黒いスーツに身を包んだ、若い男が立っていた。

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