《MUMEI》
下水道
 下にはさっきの少年とユキナが待っていた。
 少年の手には大きな懐中電灯が握られており、この下水道唯一の光源となっていた。
「ユウゴ、怪我は?」
「いや、平気。……けど、お前」
ユウゴは少年を見た。
彼は「また会ったね」と笑ってみせた。
「知り合い?」
「知り合いっつーか、なんつーか」
「このゲームが始まる前に、偶然会って少し、話をしたんだよ」
「ふーん」
 ユキナは不思議そうにユウゴと少年を見比べていた。
「で、お前……っと、名前なんだっけ?」
「サトシ」
「サトシは、ずっとここに隠れてんのか?」
「まさか。こんな不衛生なとこにいたらすぐに病気になるし。ここは移動するのに使ってるだけ」
「移動するのに?こんな臭いとこわざわざ通るの?」
ユキナはあからさまに眉を寄せた。
「確かに臭い。でもその分、安全。なにせ、いるのはネズミだけだからね。人間がいない。たまに亀がいるけど」
「なるほど。お前、頭いいな」
「えー、わたしは嫌。体に臭いが染み付きそうだし」
「命とられるよりマシじゃね?しかも、もう手遅れ。お前、臭いよ」
ユウゴは鼻を摘んでみせた。
「ひっど!あんただって臭いんだからね」
「あんまりでかい声だすなよ。ここ響くんだからよ」
「誰が怒鳴らせてんのよ?」
「やめなよ、二人とも」
見かねたサトシが止めに入る。
「見ろ。年下に注意されたじゃねえか」
「だから、誰のせいよ?」
「……で、兄ちゃんたちは、なんでわざわざこんな激戦地まで来たの?上に普通の人間は誰もいないよ?」
「だな。駅前のモニター見に来たんだけど、まさかあそこまでとは思わなかった。どこだよ、ここって感じ」
ユキナも頷いた。

 サトシは少し考えて、ボケットから透明なビニールに包んだ地図らしきものを取り出した。
「なにそれ?」
ユキナが後ろから覗き込む。
「下水道の地図」
「そんなの、どこで手に入れたんだよ」
しかし、サトシは質問に答えずに指で道をなぞった。
「ここを行ったらちょうどモニターが見える位置にでるよ」
「マジで?よく分かるな、お前」
「僕、記憶力がいいからね」
得意げにサトシは笑みを浮かべた。
「ああ、そうかい。じゃあ、ついでに道案内も頼むぜ」
「了解」
サトシは頷き、歩き出した。
「え〜。ここ行くの?やめようよ」
「じゃ、お前は上を行け。俺たちは下を行く」
 ユキナを残して進み始めると、しばらくして静かに彼女はついてきた。
「結局、来るんじゃん」
「うるさい」
ユキナはふて腐れて言った。
「なんだかんだ言って、兄ちゃんと姉ちゃん、仲いいね」
サトシがにこやかに笑って言った。
『どこが』
二人のハモった声が下水道内に反響する。
「ほら、仲いいじゃん」
サトシの言葉に、二人は無言で睨み合ったのだった。

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