《MUMEI》

「わ、悪いか……?」


彼は俺と颯ちゃんを伺うような目付きで、
その場に縮こまっている。


その時、
俺の目にはテレビの世界だけの、
あの凪谷賢史には見えなかった。


一人の、ただ一人の人間としての、
凪谷賢史だった。


俺は……一体何を考えていたのだろう。


後悔した。


恥じた。


上辺だけで彼を見ていた自分に。


結局俺は、
自分勝手な固定観念で彼を見ていたに過ぎなかったんだ。


彼はこんなにもサインを出していたのに。


人を必要としていたのに……。


「悪い訳ないだろ!」


「うんっそうだよ!」


その俺達の言葉で、
彼は安心しきったように顔を綻ばせた。


「なあ!

俺等ぜってぇ強くなるよな!」


俺の隣りで颯ちゃんは、無邪気にはしゃいでいる。


「颯ちゃん……、
はしゃぎすぎ。」


そんな颯ちゃんに俺は努めて冷静な声で答えた。

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