《MUMEI》
着替え
「ちょっと、安心、ですね」

「ちょっとどころか、かなり、だね」


屋代さんは本当に安心した様子だった。


今、秀さんは部屋にあるユニットバスで水着に着替えている。


男同士だから、普通はそんな事する必要は無いのだが


(俺も屋代さんもゲイだしなあ…)


…一応、警戒されているらしい。


(それとも、嫌悪、かな?)


ガチャッ


「次、田中君、どうぞ」


そう言う秀さんは、笑顔で


少なくとも、俺に対しては敵意は無かった。


「田中君?」

「あ、…はい」


俺は慌ててユニットバスに入って鍵をかけた。


俺が着替えるのは水着


…ではない。


俺達が向かうのは、普通の海水浴場で


俺は、背中を見られたくない。


だから


黒のタンクトップとTシャツはそのままで


下だけ、短パンに履き替えた。


「お待たせしました」


再び俺が戻ると、そこに秀さんの姿は無かった。


「先に行ったよ」


屋代さんは苦笑しながら教えてくれた。


(それにしても…)


「何で屋代さんを呼んだんだろう?」


屋代さんの着替えの間、俺はそればかりを考えていた。

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