《MUMEI》
モニター
 カンカンカンと梯子を昇る音が響く。
ユウゴは頭上を塞ぐマンホールの蓋を僅かに持ち上げた。
できた隙間から外の様子を窺う。
「おわっ!!」
 すぐ目の前に、白目を剥いた女の死体がこちらを向いていた。
「どうしたの?」
すぐ下からユキナの声がする。
「な、なんでもねえよ。出るぞ」
 ユウゴはなるべく音がしないように蓋をずらし、外に出た。
後からユキナとサトシが続いて穴からはい出る。
「わ!」
ユキナが女の死体を見て声を上げた。しかし、サトシは涼しい顔でそれを見下ろしていた。

 三人が出た場所は、四方を建物に囲まれた妙なスペースだった。
ここへは、建物の中からしか来ることはできないようだ。
 おそらくこの死んでいる女は、怪我を負ってここまで逃げてきたが、力尽きてしまったのだろう。
「なあ、モニター、見えないんだけど?」
 ユウゴが言うと、サトシは建物に掛かった梯子を指差した。
「んだよ、また昇んのかよ」
文句を言いながら梯子に足をかける。
「ま、いいじゃん。安全ならさ」
 ユキナは下水道から開放されて嬉しそうだ。

……臭いはまだとれていないのだが。

 梯子を昇り切ると、ちょうどモニターが見える狭い場所に出た。
いったい何のためのスペースなのか謎だ。
「ね、見えるだろ?」
得意げにサトシが笑う。
しかし、ユウゴもユキナも不審そうに自分達が立つ場所を見て、サトシを振り返った。
「なんで、こんな場所、知ってんだ?」
代表してユウゴが聞いた。
ユキナは隣で大きく頷いている。
「だから、僕は記憶力がいいから……」
 ということは、前にここに来たことがあるのだろうか。
いったい、どういう中学生だ。

 ユウゴはモニターの方に視線を向けた。
下では派手な戦争が続いている。
おそらく、鬼も子も関係ないのだろう。もう、手当たり次第だ。
 ユウゴは下から自分達の姿が見えないように姿勢を低くするよう、二人に指示する。
「ねえ、あれがユウゴの見たかった情報?」
ユキナが怪訝な声で聞いた。
「その、はずなんだけど」
ユウゴも困ったように返答する。
「これはまた。ずいぶん、アバウトな情報だね」
サトシは飽きれ気味に肩を竦めている。

 ようやく見ることができたモニターに、ユウゴの求めていた詳細な情報はなかった。
『二日目
 鬼 六十三パーセント
 子 五十七パーセント』
 モニターにはその表示の下に残り時間と、駅前の様子が映し出されているだけだった。
「……パーセントって、どのくらい?」
しばらくの沈黙の後、ユキナが言った。
「知るかよ」
ユウゴが投げやりに答える。
「もともと何人が参加してるか知らないいもんね。それでパーセントって言われても、ねえ?」
 サトシはやたらと冷静にフウっと息を吐いた。
「なんか、さっきから思ってたけど……」
ユキナがユウゴを見る。ユウゴは頷いた。
「……お前、俺より冷めた中学生だな。かわいくねえ」
 サトシはまるで褒められたように、ニッコリ微笑んだ。

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